ツーリズムの力で教育 新しい旅のカタチを提案
――19年を振り返ると。
「旅行業界から見ると、豪雨や台風などによる災害が多かった。ここ数年、続く傾向にあり、『ふっこう割』や応援キャンペーンによる観光支援の実施も多くなっている」
「ワールドカップラグビーも開催された。札幌から熊本までの会場はほとんど満席で、多くの人が試合を見た。イギリスをはじめスポーツを楽しむ外国の人たちがたくさん来て、日本人も一緒になって楽しんだ。以前のスポーツは『参加する』か『見る』かのいずれかだったが、ラグビーは『楽しむ』という新しい種をまいた。スポーツツーリズムの広がりが表せた」
「5月の大型連休では、長い旅行を楽しむ人が多くいるかと思ったが、相変わらず1泊2日。せいぜい3泊4日で後は家で休むとかだ。休みを楽しむことについてはまだまだだと改めて感じる」
「首里城が火災に見舞われ焼失してしまった。ノートルダム寺院でも火災が発生したが、起こったことはしょうがない。地震で被害を受けた熊本城も含め、われわれ旅行会社は応援キャンペーンを実施し、新しく再建されるまでのプロセスを応援していく」
「インバウンドは韓国や香港の問題で影響が出ているが、ラグビーワールドカップがあってまだ伸びている」
――20年の国内旅行はどう動くと見ているか。
「宿泊旅行が減少傾向にある。自然災害による一過性のものなのかを見極める必要がある。消費税が10月にスタートしたが宿泊旅行に大きく影響していない。それよりも高齢化がどう影響するかが問題だ。高齢化社会の中で高齢者が自由に旅行できる環境をどう作るか。ツーリズムは人々の交流と移動なので、大事なキーワードは交通だ。二次交通、三次交通に課題がある」
「国内観光は、単に宿泊を伸ばすのではなくて、旅のライフスタイルを変えていかなければならない。これからの旅行は『どこに行く』というよりも『何をしに行く』という目的がテーマだ。ツーリズムEXPOジャパンでも『次のステージへ。新しい旅のカタチ』とテーマに掲げているが、新しい旅のカタチを示すような努力をするべきだ」
――訪日旅行の動きは。
「3千万人を超えてリピーターが増えた。リピーターが増えると地方に分散する。ロンパリローマに行った日本人は20年たってフランスのパリ以外の地方を周遊したりスペインだけを1周したりコースの志向が変わった。同じように旅行が成熟化すればリピーターが地方に行くのは旅行の常だ。日本も最初は東京、京都、大阪に集中するが、地方分散化は言わなくても、自動的にリピーターは地方を訪れる。高松や松山は東南アジアから直行便が飛んでいるので、四国だけに行くお客さまも増えている」
「問題は人数よりも国内消費額だ。8兆円という20年の目標に対して今4.6兆円しかない。モノ消費からコト消費へという話があるが、モノもコトも両方とも消費してもらいたい。中国の爆買いもあったが、一通り買えば、次は自分の好きなものを買う。だが、訪日外国人が好きな物を買える場所が日本にあるのか。例えば、外国人に『東京で日本の伝統的な工芸品はどこで手に入るのか』と聞かれて、日本人は即答できない。パリにはバカラ美術館がある。日本では『買う場所』と『買わせ方』に課題がある。地方では宿泊施設は買わせる場所の一つだ。加賀屋や城山観光ホテルでは、高級感のあるギャラリーがあり、高価な九谷焼や薩摩切子などを販売している」
――最大の話題は「東京2020オリンピック・パラリンピック」だ。
「オリンピックはスポーツイベントではなく、テストなんだ。205の国と地域から人が来て、日本がどういう国か見られる。パラリンピックはユニバーサルデザインができている国かどうかのテストだ。クーベルタン男爵は『オリンピックは単なるスポーツの祭典ではなく、芸術や文化も含まれる』と言ったが、文化論がまったく出てこない。スポーツツーリズムというのはスポーツと文化なので、地方の良さを伝えるなど、文化も国内観光の目玉として外国人にしっかりアピールする必要がある」
――旅行業の発展に向けた課題と課題解決は。
「デジタル化は避けて通れない。キャッシュレス化が進み、予約がインターネットで簡単に手配できるようになったので、お客さまは従来のような旅行会社の使い方はしない。店舗とデジタルとがバーサス(対する)の話になっているが、そうではない。店舗とデジタルの価値をどう一緒に高めるのかが大事だ。今までの旅行会社は切符を売る、手配をするのがメインだったが、手配をする機能はデジタル化がどんどん進む。旅行会社はコンサルティング力と企画力を強化し、進化しなければならない。コンシェルジュ会社はヨーロッパでも生き残っている」
「旅行会社のもう一つのキーワードは、素材の開発だ。素材を創り上げるのは誰かというと地域だ。その中に旅館もいる。旅館の役割はものすごく大きい。自分の館を磨くと同時に、地域の魅力を磨く作業をやってほしい」
――会長としての年頭の抱負をお聞きしたい。
「旅行業界の役割は二つあって、一つは、SDGsをしっかりやっていく。もう一つは、新しい旅のカタチを提案する。これをオリンピックに合わせて示していきたい。今年度のキーワードは『ツーリズムの力を使った教育』だ。『異文化交流』や『地方創生』、『交流価値の創造』というのは、今の高校生、大学生に教えなくてはいけないテーマでツーリズムの役割に全て入っている。ツーリズムを通じて、それらをしっかり教えるためのプロセスを創っていきたい」
(聞き手・板津昌義)
田川会長