訪日再開へ分散化課題 「地方の自然」の発信強化
――新型コロナウイルスの世界的な流行でインバウンドは厳しい。
「2019年は訪日外国人旅行者数が3188万人、消費額が4.8兆円と共に過去最高を記録したが、2020年の春以降は渡航・入国制限などでその数はほぼゼロになった。経済への打撃は極めて大きい。国際的な旅行需要、航空需要がコロナ以前の状態に戻るのは、UNWTO(国連世界観光機関)やIATA(国際航空運送協会)の予想では2024年ともいわれている」
――誘客ができない中でJNTOの活動は。
「今、日本へ来てくださいという具体的なプロモーションはできないが、日本の魅力を継続して発信し、関心を高めて将来の訪日につなげることはできる。在留外国人に日本の魅力をSNSで自国向けに発信してもらうキャンペーンや、自治体、DMOから集めた観光資源の動画や記事をJNTOのSNSなどで発信する事業に取り組んでいる」
「世界22都市のJNTO海外事務所では、現地の感染状況や旅行動向の情報を収集、分析し、日本国内のDMOなどに情報提供しているほか、個別相談にも対応している。現地と日本国内をオンラインでつなぎ、最新の市場動向を伝えるセミナーも行っている」
「外国人向けに発信してきた各地域の観光資源に関する情報を日本語に翻訳し、国内向けに発信する取り組みを始めた。外国人目線で選ばれた観光資源を国内向けに使っていただくことで、日本人に日本の良さを改めて知ってもらい、地方を支え、同時に日本の観光資源の磨き上げに役立たせてほしいと考えている。そして、インバウンドの回復につなげたい」
――2021年には東京オリンピック・パラリンピックが開かれる。国際観光の本格的な再開も期待される。
「国際観光が動き出したときに、競合国に対して誘客プロモーションなどで後れを取ることがないよう準備している。ビジネス目的の往来は徐々に始まっているが、観光目的の入国の再開に当たっては、外国人の受け入れに関して地域に不安があってはいけない。感染症対策をはじめ、受け入れ態勢などで政府と連携しながら、段階的にインバウンドを復活させていきたい。そして、東京オリンピック・パラリンピックにおけるJNTOの役割は、来日した観客に日本の魅力に触れてもらうこと、外国のメディアに日本の魅力を発信してもらうことだ。そのためのプロモーションやファムトリップを計画している。これらをきっかけに訪日旅行需要の回復につなげていきたい」
――ウィズコロナ、ポストコロナといわれるが、インバウンド施策に変化は。
「インバウンドの本格的な再開までにはもう少し時間がかかりそうなので、今のうちに今後の対応を考え、しっかり準備する必要がある。当面、3密対策やソーシャルディスタンスなど感染症対策を講じた旅行を考えないといけない。これまでにも感染症対策とは別に、持続可能な観光という観点から、混雑や集中への対策の必要性が指摘されてきた。訪日旅行における地域や時期などの分散化、平準化はさらに重要な課題になったといえる」
「訪日外国人旅行者をゴールデンルートから地方へ分散させる施策をさらに強化する必要がある。テーマの一つは地方の自然だ。国立公園だけでなく、スキー、ラフティング、ダイビング、サイクリングなど、全国に魅力的なアクティビティがある。2021年9月には北海道でアドベンチャートラベル・ワールドサミットがある。自然や異文化を体験するアドベンチャーツーリズムの世界最大のイベントでアジアでは初開催。富裕層など世界の旅行者に日本の自然を知ってもらう好機だ。われわれ自身も観光素材を再発見する機会にしたい」
――国際会議などのMICE施策の推進は。
「JNTOは現在、国際会議の誘致活動に寄与してくださる学術・産業分野の有識者69人の皆さんにMICEアンバサダーになっていただいている。先ごろ今後の国際会議の誘致、開催について意見をうかがったが、皆さんが言うのは、オンライン化できる部分はあっても、本格的な議論はやはりフェイス・トゥ・フェイスだと。ハイブリッド型の開催は増えると思うが、コロナが収束すれば、リアルな国際会議に戻ってくる。アンバサダー、自治体、事業者の皆さんと連携し、先を見据えた誘致活動に取り組んでいる」
――2021年をどのような年にしたいか。
「2020年はコロナで始まり、コロナで終わってしまった感がある。一時は外出の自粛が要請されるなど、旅について改めて考えさせられた。知らない世界を見たい、誰かに会いたい、おいしい物が食べたい。いろいろな動機があり、旅をするのが人間だ。2021年は、日本だけでなく、世界の人々が安心して旅行できるようになってほしい。みんなが新たなスタートを切れたと言える年にしたい。政府は2030年の訪日外国人旅行者数6千万人、消費額15兆円の目標を堅持している。われわれは観光先進国の実現に向けてがんばっていく」
――インバウンドに取り組む事業者や地域に向けてメッセージを。
「コロナ禍で現場は極めて厳しい状況とは思うが、観光業は日本経済、地域経済を支える大きな柱になっている。この柱をさらに太くするにはあらゆる『連携』が鍵だ。観光産業は裾野が広いし、外国人旅行者には自治体の境などは関係ない。観光の重要性を幅広い方々に理解してもらいながら、地域と地域、官と民、民と民などの連携を強化し、コロナ禍を乗り越えて前に進んでほしい」
【聞き手・向野悟】
日本政府観光局(JNTO)理事長 清野 智氏