GoTo延長時、中小に配慮 資源磨き上げ、受け入れ準備を
新型コロナウイルスの感染が拡大し、観光業界は甚大な影響を受け、危機的状況に陥った。政府からはGo Toトラベルなど各種支援施策が打ち出されたが、コロナ禍の収束はまだ見えていない。今後、国土交通省が2021年に観光分野に対して取り組む成長戦略とは―。赤羽一嘉国交相に聞いた。(12月11日に国交省大臣応接室で、聞き手は本社取締役編集長・森田淳)
――Go Toトラベルが6月まで延長することが決まったが、事業の現況をどう捉えているか。また、比較的恩恵が少ないといわれる中小旅行事業者への支援に対してどう考えているかを伺いたい。
「観光関連業は、宿泊業や旅行業のみならず、リネン業や食材納入業などの旅館・ホテルの取引業者、貸し切りバス、ハイヤー・タクシー、レンタカー、フェリー、土産物店、飲食店など極めて裾野が広い産業で、全国900万人の雇用を支えている。観光関連産業を支援することは、地方経済を支えることになる。コロナ発生後、政府として、まずは経営の継続と雇用の維持に向けて、持続化給付金や無利子無担保融資といった資金繰り支援や、雇用調整助成金の大幅拡充などの取り組みを行ってきた。その後、状況が落ち着き次第、強力な需要喚起策としてGo Toトラベル事業を開始した」
「本事業は、コロナ禍においても国民の『命』と『暮らし』を守るために、『感染拡大防止』と『社会経済活動』の両立を実現し、ウィズコロナ時代における、新たな安全・安心な旅のスタイルを普及、定着させるチャレンジであり、予算規模は1兆3500億円と巨大で、特別な国家事業である。本事業に参加する事業者に対しては、厳しい感染拡大防止策を講じることを義務付けし、全ての参加宿泊業者に対する実地検査も行っている。また、利用者にも新たな旅のエチケットを守っていただいている」
「私自身、これまで(12月20日現在)に、全国31の観光地を訪問し、毎回3時間程度の意見交換を首長や観光・運輸関連事業者などと行い、現場からのご要望を伺っている。その中で、『Go Toトラベル事業がなければ廃業が相次ぎ大変なことになっていた』『事業終了予定の1月31日以降も補助率の段階的引き下げなどソフトランディングを図りながら延長してもらいたい』といった声をいただいている」
「高級旅館ばかりが潤っているとの報道があったが、実際の調査では、これまで延べ5300万人泊のうち、1人当たりの旅行代金は1万3千円台で、宿泊費の範囲は5千円から1万円未満が一番多いとの結果が出ている。他方、旅行業では、OTAの利用率が高く、地域の中小旅行事業者が苦戦している傾向がある。業種で言うとインバウンドや団体旅行に依拠してきた貸し切りバスも苦戦しており、本事業の延長に際しては、こうした課題に少しでも配慮したい。また、長期にわたる延長を求められる場合もあるが、本事業は極めて特別な事業であり、2年も3年もできないとはっきり申し上げている。本事業実施期間中に、観光資源の磨き上げや受け入れ環境の整備をし、観光地の底力を付けてもらいたい」
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――Go Toトラベルで良かったことは。
「全国各地で、本事業を活用して地元の観光地、温泉地を旅行されているケースが多く、結果的に、マイクロ・ツーリズムの流れができたことは良かったのではないか。私の地元の神戸でも、多くの神戸市民が、市内にある有馬温泉に宿泊され、有馬温泉や周辺地域、施設の素晴らしさを再発見されている。泊まったことがある人はごく一部だったのではないか。余談になるが、私は本事業のネーミングを『ディスカバージャパンアゲイン』としたかったのだが(笑い)。地元の観光地に気軽に足を運ぶことが一過性でない新たな旅のスタイルとして定着することは、地域の中小事業者にも裨益(ひえき)することになる」
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――コロナ禍で打撃を受ける旅館・ホテルを今後どう支援するか。
「全国の観光地では、Go Toトラベル事業を利用し誘客することで、リピーター作りへとつなげてもらいたい。また、この間を利用してWi―Fi設備や多言語案内、洋式トイレ、バリアフリー化などの施設整備を進めると共に、地域の博物館や美術館などとの連係、農泊やアドベンチャーツーリズムなどの滞在型コンテンツの充実などに支援したい」
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――地域の観光地づくりを行うDMOはどう評価しているか。
「DMO政策は難しく、うまくいっていない地域の方が多いかもしれないが、観光地としての魅力を磨き上げていく上で、また、コロナ禍のような危機対応においても、DMOを中心とした取り組みを進めることは重要である。今回、各観光地を回る中で、DMOの取り組みとして、観光地全体で『顧客づくり戦略』を進めた結果、コロナ禍においても利用客の激減を回避できたという成功例を伺うことができ、観光施策の中心としてDMOへの支援を強力に進めることを決意した」
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――地域では滞在型も含めた観光コンテンツの造成を頑張っているが、今後はどう支援するか。
「今年度の第3次補正でも、来年度当初予算でも、観光立国を目指すにふさわしい充実した予算編成ができる見通しだ。20年は、コロナ禍の影響で多くのイベントが中止となってしまったが、観光庁として、各地方のイベント主催者などの相談に乗りながら、滞在型コンテンツの造成に関して充実した支援を行っていくことになる」
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――今後、何か画期的な施策は。
「地方の観光地を回ると一番心配なのは、廃業した旅館・ホテルの廃墟。3分の2ぐらい廃業している場所もある。そういう場所は、治安が心配で、雰囲気も良くない。来年度は、除去する施設に対して2分の1の額を支援する。私的財産に関することだが、これは大事なことで、ぜひ使ってもらいたい」
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――Go Toトラベル後には東京オリンピック・パラリンピックが控え、インバウンドの段階的復活も期待される。改めてどうインバウンド6千万人を目指すのか。
「インバウンドは間違いなく再開する。20年はいったんゼロに戻ったが、2030年の6千万人の目標は、政府として変えていない。複数のシンクタンクなどによる調査では、海外旅行が再開した際に訪れたい国の最上位に『日本』が位置付けられている。日本の公衆衛生レベルの高さや、医療パニックを回避するなどカントリーリスクの低さなどが高く評価されての結果とのこと。インバウンドが再開されれば、回復するのは早いとにらんでいるし、東京オリンピック・パラリンピック大会の開催が、その大きな原動力となる」
「コロナ禍は大変な災いだが、災いをどう転じていけるかを考えなければならない。制約下であるからこそ、新たなビジネスモデルが生まれやすいと思う。以前から旅館・ホテルにおける衛生面での取り組みレベルは高かったが、コロナ対策として新たな投資が行われ、結果として快適な宿泊環境は数段グレードアップしたことは、観光立国としての力が付いたことになるであろう。コロナ禍によって、働き方が変わり、その結果、暮らし方にも変化が生じ始め、地方への移住や2拠点居住、ワーケーションなどが、現実のものとなり始めている。間違いなく、こうした変化は、国民の価値観にも影響を及ぼすに違いない。まさにこれからが、地響きを立てて社会が大きく変化する時。全国の観光地が観光立国として恥じない実力を付け、交流人口が増えることによって地方創生が進む絶好のチャンスと捉え、先をにらんだ国土交通省の行政、観光政策を実行していきたい」
赤羽一嘉・国土交通大臣