国内宿泊需要が急回復
日本全国の宿泊施設を支援
だらだらと長引くコロナ禍の中で低迷していた観光業界だが、22年10月11日に潮目が変わった。この日から全国旅行支援が始まり、出入国時の水際対策が緩和された。23年は「観光V字回復」の年になるだろう。国内OTA3社のトップとJTBのWeb販売事業部長に各社の現状と今後の方向性を聞いた。司会=本社・企画推進部長 江口英一(22年11月10日、東京・日本橋のロイヤルパークホテルで)
――2022年はどんな年だったか。楽天トラベルの髙野さんから。
髙野 3月ごろまでは、まん延防止等重点措置の影響もあり厳しかった。旅行業界全体が同様だったのではないか。GW明けからは、旅行需要を喚起するためのCMをTVとオンラインで全国に放映した。また、楽天トラベル上で顕著な実績をあげ、高い評価を得られた宿泊施設を表彰する「楽天トラベルアワード」の表彰式を、3年ぶりに対面で開催した。3月下旬から全国10カ所を訪問して行った。実は20年も対面で開催したのだが、一部の地域はコロナの感染拡大時期と重なり、自粛していた。
楽天グループ 髙野氏
――開催できなかった地域はどうしたのか。
髙野 私と武田(楽天グループ副社長執行役員コマースカンパニープレジデントの武田和徳氏)で全国の宿泊施設を回り、トロフィーをお渡しした。21年は全地域を同様に回った。私たちは宿泊施設と共にビジネスをしているという思いが強いので、関係性をとても大切にしている。
――CMの効果はあったか。
髙野 GW明けから夏にかけてコロナ前の19年を上回る予約が入る日が増えていった。夏季は第7波があったが、全体で見ると19年実績を超えることができた。10月からは全国旅行支援も始まり、楽天トラベルではカード決済時の宿の手数料を減免するなどしてサポートも行った。さまざまな取り組みが良い効果を生み出している。
旅行予約の分野では、オンラインシフトがさらに加速している。観光庁が公表する全国の宿泊旅行統計の数値と比較すると楽天トラベルのマーケットシェアは安定して20%を超えている。
――楽天トラベルとじゃらんのシェアは共に30%ぐらいあるのではないか。
髙野 そういう月もあるかもしれない。コロナ禍でオンラインシフトは進むだろう。
――22年のじゃらんはどうだったか。
宮本 22年度はトータルでみると堅調に推移した。19年比では前半はマイナスの月も多かったが、後半はプラスに転じた。前半は新型コロナの影響を受けネガティブに推移したが、9月以降は徐々に感染も落ち着き、需要も上向きになった。全国旅行支援が始まってからは大きく需要が回復した。
私たちは「地域を共に創る」「需要を創る」「需要に応える」を3本柱にしてずっと事業運営を続けてきている。外部環境の変化の激しい1年ではあったが、それぞれにおいてさまざまなチャレンジをした1年でもあった。
「地域を共に創る」では、以前から続けている「ご当地グルメ」の開発、また各地域に点在する観光資源をストーリーでつないだ「ご当地体験」開発に取り組んだ。いくつかのご当地グルメは実際にデビュー。伊勢などで「絆結び」というストーリーによるご当地体験も開発した。
「需要を創る」では、22年度は「じゃらんスペシャルウィーク」という大型セールを定期的に展開した。需要を喚起し、一定の成果も出た。このセールの中で「オンライン決済特集」を継続的に行い、キャッシュレスも推進している。22年のオンライン決済比率は10ポイント程度上がっている。
「需要に応える」では、リクルートが提供する業務・経営支援サービス「Airビジネスツールズ」の展開を積極的に行っている。特に22年は「じゃらん専用Airペイ特別プラン」という特別プランを作り、宿泊施設の方々のキャッシュレス対応のサポートに注力した。また、宿泊施設ための収益管理ツール「レベニュー・アシスタント」の機能改善も行った。
リクルート宮本氏
――リクルートは、地域の観光DX推進に積極的だ。
宮本 神奈川県箱根町、新潟県妙高市、山梨県富士吉田市、熊本県と包括連携協定を結んで推進した実績がある。地域によって多少取り組み内容は違うのだが、箱根の例でご説明したい。お店の決済サービス「Airペイ」を地域の飲食店、土産店などの事業者に導入していただき、金流データを蓄積する。それに、私たちが持つ宿泊や体験コンテンツなどの人流データを合わせて、デジタル消費をマーケティングできるデータベースを構築するというのが全体モデルだ。需要予測にも使えるようにする。1カ月先の地域の需要予測ができれば、宿だけでなく土産などの仕入れや人員確保に役立つはずだ。この「じゃらん版観光DX」は、引き続き積極的に推進していく。
――じゃらんのアクティビティ予約「遊び体験予約サービス」はコロナ禍中では好調だったのでは。
宮本 大変な勢いで成長した。果物狩りなど野外で行うアクティビティ、体験はコロナ禍中の近場レジャーに最適だ。じゃらんゴルフも非常に成長した。
――22年の一休はどうだったか。
榊 22年は、旅行、宿泊業界全体としては、回復の兆しが見えたものの引き続き厳しい年だったのかなと思う。一つの軸を高級宿とカジュアル宿、もう一つの軸を国内客とインバウンド客と、4象限のマトリクスで考えると、「国内客の高級宿」のマス目のセグメントは活況だった。一休の主な顧客層である国内富裕層セグメントについては動きが良かった。コロナ3年目ということで、春先には「リベンジ消費」もあった。19年から20年、21年と継続して成長はしてきたのだが、微増レベルだった。22年については大きく成長できた。
私たちは国内の高級宿泊施設から豊富な客室在庫をお預かりし、主に国内の宿泊客に提供している。20年、21年のコロナ渦中は海外旅行需要が高級宿泊施設に流れ、それを取り込めた側面もあり、マイナスにはならなかったと分析できるかもしれない。
一休 榊氏
――22年に大きく伸ばすことができた要因は何か。
榊 ”緩急”をつけたプロモーションと私たちが得意とする「ワン・トゥ・ワン・マーケティング」の駆使だ。例えばコロナ感染者数が多い時は、すごく旅行が好きなヘビーユーザー層だけが旅行に行く。そういう状況の時に「このお客さまなら今この宿に行きたいはず」というのが、蓄積データから分かっているので、ワン・トゥ・ワン・マーケティングを強めて、ヘビーユーザーだけに「あなたにおすすめの宿」をリコメンドする。感染者数が少し落ち着いた局面では、感染リスクが少ないなら旅行したいというミドル層が動きだす。この場合はワン・トゥ・ワン・マーケティングに加えて、より広い顧客層が興味を持つエリア特集などをお伝えする。
そして最後に、22年夏のように非常に多くの方が旅行に行きたいと思う状況の場合は、大きなポイント還元を打ち出すなどしてライトユーザー層でも旅行に行きやすくなる背中を押す施策を打つようにする。どのタイミングでどの策を実行するのかを細かくコントロールすることで、数字を積み上げていくことができた結果だ。
コロナ禍中は、アクセルとブレーキの踏み分けによるこまめなスピードコントロールをずっと行ってきた。顧客基盤があっての手法だが、これが一休の需要喚起策だ。
――一休が運営しているヤフートラベルの方はどうだったのか。
榊 一休のユーザーは「旅好き」の方。一方、ヤフートラベルのユーザーは「旅に行きたいと思った時にサーチ(検索)して予約する」方だ。感染状況が厳しい時にヤフートラベルで策を打つのはなかなか難しかった。ただ、ヤフートラベルではマスマーケティングを用いて多くの方にリーチすることが有効だ。春以降に「誰でも10%還元セール」という施策をしばらく行った。
――22年のJTBのウェブ事業はどうだったか。
池口 市場環境全体としては皆さんと同じで前半は厳しかった。JTBのウェブ販売には、「JTBホームページ」と「るるぶトラベル」、そしてヤフートラベルも含めた提携サイトの三つのカテゴリーがある。自販と呼んでいるJTBホームぺージとるるぶトラベルでは、年度でいう上期では19年比で国内旅行は100%を超えることができた。「県民割」「ブロック割」などの効果ももちろん大きくお客さま自体の数が増えたこともあるが、併せてDP(ダイナミックパッケージ)強化の方にかじを切ったことでツアーが大きく伸張した。10月以降は「全国旅行支援」で好調に推移し、19年比で倍以上の実績数値となっている。
これまでは、周囲からの“行動制限”の目がある一方で、“ニューノーマル”“ウィズ・コロナ”等の意識もあり、感染に留意しながら出かけられるところには出かけたい、というお客さまの意識が非常に強かったのだろう。私たちもさまざまなお客さまに対してSNSやメルマガなどでアプローチしており、反応は良い。旅行されたいという沸々としたお客さまの思いが顕在化した22年だったと感じる。
JTB池口氏
――サイト上での新しい取り組みは。
池口 高級宿泊施設約400施設を対象とした特集コーナー「プラチナクオリティ」を3月から始めた。JTBトータルで取り組み、サイトでも店舗でも、また専門デスクを設けたリモートコンシェルジュでも販売している。宿によっては、今までよりも20%高いコンバージョンレート(予約転換率)を記録するなど、好調に推移している。また、JTBアプリの機能強化などにも取り組んでいる。
――るるぶトラベルとアゴダとの協業はうまくいっているのか。
池口 アゴダとの提携の経緯は、グローバルOTAの技術やスピードを導入することで、るるぶトラベルと訪日サイトのJAPANiCANのリニューアルを早期に確実なものにするということなどだった。マーケティングなどに関して高頻度で意見交換を行い、効率的な運用に向け進み始めている。画面などシステム的な部分でまだ課題も多いが、目指すものに徐々に近づいている。実際にはアゴダから学ぶことも多く、相互にさまざまな刺激を与え合いながら協業を続けているところだ。
――宿泊在庫の共有はしているのか。
池口 JTBが展開している商品をアゴダで販売する、提携販売としての取り組みは従来から実施している。アゴダの在庫をるるぶトラベルで販売するということは現在行っていない。
――各社の23年の展望、取り組みについて教えてほしい。楽天トラベルから。
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