パンデミックを乗り越え世界で旅行需要が急拡大
日本の出入国における水際対策は2022年10月11日に緩和された。その後、インバウンド客数は徐々に回復している。グローバルOTAのインバウンド誘客に対する期待は、コロナ前に増して高まっている。世界四大OTAの日本市場トップに各社の世界戦略と日本戦略を聞いた。(22年11月25日、東京・日本橋のロイヤルパークホテルで)
――2022年はどんな年だったか。簡単な自己紹介と合わせて話してほしい。トリップ・ドットコムの勝瀬さんから。
勝瀬 17年間の米国でのITサーチエンジン、ベンチャーキャピタル、ヘルスケア業界から旅行業界に転身して8年目になる。2年前からトリップ・ドットコムの日本代表を務めている。22年はコロナ禍で受けた大きな痛手から徐々に立ち上がって、10月11日からの水際対策緩和で大きく数字を伸ばすことができた。
22年、私たちは今まで取り組んできた三つのことにより力を入れた。一つ目は「モバイルファースト」。私たちのアプリは非常にユニークで、ホテル、フライト予約だけでなく、鉄道予約やメディア機能などさまざまなエレメントが入っている。旅に関することは全てオールインワンで解決できる。お客さまの旅行体験を大幅に向上させるために、トリップ・ドットコム・アプリを大幅に改善している。「アプリ ファースト」戦略の中で着実にアプリインストールが促進され、ダウンロード数は620万を超えている。22年7月にトリップ・ドットコムは、22年上半期に世界で最もダウンロードされたトップ10オンライン旅行アプリに選ばれた。また、中国国内ではモバイルが非常に進んでいる。中国で作られるスマートフォンは年間1億台で、国内向け出荷分のほとんどに私たちのシートリップ・アプリがプレロードされている。そのためシートリップ・アプリ累計ダウンロード数は50億を超えている。中国で旅行予約の9割はモバイルから行われているため、モバイル向けにエンジニアリングパワーを使っている。
二つ目は「オールインワン戦略」。当社の強みはもちろんホテルの予約だが、移動手段関連の予約収入が実に22年の上半期の総収入の最大源泉となっている。私たちのプラットフォームでは260社以上のフライト予約ができる。また傘下には世界最大の航空券比較サイト「スカイスキャナー」も擁している。全ての旅行手配がアプリのワンストップショッピングで統合的に実現できる体制を日本でも構築中だ。
三つ目は「カスタマーサポート(CS)」の充実。CSには高いコストがかかるため、多くの会社で外注もしくは縮小の方向に進んでいるようだが、私たちの場合はむしろ力を入れている。人員数もカバーできる国の数も機能も全て増強している。日本においては前年に比べて約4倍を新規採用している。その約8割はカスタマーサービスに専任している。22年7月に「国際CREアワード2022」というCSのアワードで優秀コンタクトセンターにも選ばれた。
OTAはオンラインで顧客の顔を見ずに旅行商品を販売しているわけだが、私たちは何かトラブルが起きた際には徹底的に顧客に寄り添う姿勢を明確にしている。トリップ・ドットコムグループでは、魅力的で競争力のある旅行商品を高水準のCSで提供することを標榜(ひょうぼう)し、実践している。
トリップ・ドットコム 勝瀬博則氏
――22年の実績はどうだったか。
グローバルの数字だが、22年第2四半期(4~6月)は、航空券が前年同期比680%。ホテルは19年同期比151%、前年同期比でやはり3桁。レンタカーは同700%だった。第3四半期には、当社のグローバルプラットフォームでの航空券予約全体が前年比で100%以上増加した。同時に、EMEA(欧州・中東・アフリカ)と南北アメリカの航空券予約は引き続き前年比で2桁の成長を示し、APACは21年の同期を400%以上上回る素晴らしい成長を遂げている。第4四半期まで伸び、これまでに19年のレベルを超えている。全体として、当社のグローバル・プラットフォームでのホテル予約は、第3四半期に19年の水準を45%以上上回っており、中国以外の市場での国内のホテル予約は19年と比べて300%増加している。満足のゆく実績を日本の国内外で残すことができた。今は、特に23年の中国人インバウンド再開に期待して、着々と準備を進めている。
――エクスペディアの山﨑さんは。
山﨑 エクスペディア・グループで日本とミクロネシアの統括ディレクターをしている。以前は沖縄のホテルなどで働いていて、エクスペディア・グループに入社して9年目になる。両親が航空会社勤務だったため、子供のころから観光業界に憧れていた。ハワイに住んでいた2011年、東日本大震災でワイキキから外国人観光客が消えた場面に遭遇した。そこからのリカバーも見てきた。パンデミックからのリカバリー局面でもいろいろと考えさせられることが多かった。コロナ禍で「人に会えない」「旅に出られない」中で、人々は「本当に会いたいのは誰か」「本当に行きたい旅先はどこか」を考えたことだろう。ビジネスにおいては、「観光業界はどうあるべきなのか」「無駄があるとすればどこか」「改革すべき点はどこか」を見つめ直さざるを得ない期間だった。その中で、エクスペディア・グループとしてどのように貢献していけるかは大きな課題だった。
22年5月、エクスペディア・グループは、米ラスベガスで「エクスプロア(Explore)」という大規模対面イベントを開いた。そこで「スマート・ショッピング」「再構築したマーケットプレイス」「オープンワールド技術プラットフォーム」を発表した。
スマート・ショッピングは22年5月に全世界で開始した。例えば、沖縄のリゾートホテルの客室を検索した場合、今までは、検索順位の最上位に表示されるのがオーシャンビュー(OV)ルームではなく海の見えない安い客室だったりした。これを「このホテルで一番人気なのはこのOVルームですよ」というリコメンド付きの検索結果表示に変更した。結果、コンバージョン(予約転換率)が上がった。単なるお得さではなく、付加価値を提示することで、顧客の6%が今までより単価の高い「プレミアムレート」を選択するようになった。
「マーケットプレイス」でも検索結果の表示順位の再構築を行った。ホテルの場合、検索順位を決定する重要なファクターは、今までは「人気のホテルか、料金やお得な割引が登録されているか、一定の客室在庫が登録されているか」だった。今回、「お客様評価」も掲載順位に関係する形に変えた。5月に発表し、8月から開始した。宿泊施設が準備できる期間を3カ月間設けた。自施設のスコア(お客様評価)は管理画面で確認できる。宿泊施設に受け入れてもらえるのか実は心配だったのだが、「うちのホテルはお得感では勝てないかもしれないけど、『人』のおもてなしが表示順位に反映するなら頑張れる」といった声もあり、喜んでいただけているようだ。
最後に「オープンワールド」という技術プラットフォームについてお話ししたい。エクスペディア・グループの企業理念は「私たちの技術プラットフォームを通じて世界の旅行を加速化し、さらに力強くしていく」。オープンワールドはこれを具現化したものだ。ホテル、航空、レンタカーなどの予約機能をエクスペディア・グループの直営ブランドサイトだけではなく、API公開により幅広く使っていただけるようにした。例えば、人気インフルエンサーがSNSに「こんなに美しい旅行先でこんな素晴らしい体験をした」と投稿した時に、そのインフルエンサーがオープンワールドが提供している技術を利用していてくれれば、フォロワーが同様の旅行予約をすることができるといったイメージだ。インフルエンサーがSNS上で旅行代理店になる。
エクスペディア 山﨑美穂氏
――アゴダの大尾嘉さんは。
大尾嘉 20年3月からアゴダの北アジア地区を統括している。以前は楽天で電子ブック「コボ」等の海外子会社のマネジメントや楽天モバイル事業の立ち上げなどを担当していた。パンデミック前のアゴダの姿を知らずに入社したわけだが、非常に優れたアゴダのテクノロジーを使って少しでも観光業界の復活、特にインバウンドの伸長に貢献できればという思いで飛び込んだ。日本、韓国、台湾のパートナーサービスの統括責任者を拝命している。
22年の振り返りだが、非常に忙しい日々だった。宿泊施設さまに、少しでも弊社のサービスを使って、予約数を伸ばしていただきたいという思いで営業にうかがうのだが、特にインバウンド宿泊客が全くない中では、「インバウンドのアゴダさんですよね」と言われてしまい、当初のハードルは高かった。「そんなことないです。国内のお客さまに対しても、お宿のプランやコンテンツを発信して、皆さまのお役に立ちますよ」とアピールし続けてきた。
アゴダは、グローバルのテクノロジーを軸にしながらも各マーケットに対峙(たいじ)して、ローカライズしたテクノロジーでローカルニーズに応えていこうという方針を明確に打ち出している。その結果、日本国内市場においても数字を伸ばすことができた。予約数は開示できないのだが、国内における検索数では2019年比で2・4倍になった。
コロナ禍で、私たちもさまざまな取り組みを行ってきた。直前まで予約の取り消しを可能とした「イージーキャンセル」を開始。これはフレキシビリティを持たせることで、旅行予約への心理的ハードルを下げる試みだ。また、近隣への国内旅行をすすめる「ゴーローカル」キャンペーンを実施。国内OTAと同じように旅館・ホテルの宿泊プランを販売できるようにした「国内宿泊施設向けカスタマイズプラン」も始めた。最近では「こども料金」を設定、販売できる機能も稼働させた。
アゴダ 大尾嘉宏人氏
――お笑い人気コンビのバナナマンを起用したテレビCMは話題を呼んだ。
大尾嘉 22年7月にCMを開始し、「アゴダ」のブランド認知度は確実に上がった。これはその後の予約実績、検索実績にも表れている。
――ブッキング・ドットコムの竹村さんは。
竹村 アメリカンエキスプレスのトラベル部門に長くいて、その後GDSのアマデウスに約5年、ブッキング・ドットコムには21年7月から在籍している。人生の大半をトラベルインダストリーで過ごしてきている。
ブッキング・ドットコムにとって22年はパンデミックを乗り越えてきた年だった。乗り越えきったかというと、国・地域によって状況が違っている。私は日本、韓国、台湾、香港を統括しているのだが、私の市場と中国市場がおそらく世界で一番リカバリーが遅れている。世界中の全てのマーケットで回復したが、日本と北アジア地区、そして中国でようやく乗り越える兆しが見えてきたという状況だ。
ブッキング・ホールディンググループ全体で見ると、実は22年第1四半期に19年同期の予約数を超えていた。つまり会社全体としては既にパンデミックを乗り越えたということになる。日本、北アジア、中国はこれからだ。
私たちも、パンデミックの中で自分たちの価値を再認識、再構築する作業を続けてきた。ブッキング・ドットコムは、アゴダと同じブッキング・ホールディングス傘下のOTAで、日本国内では同様に「インバウンドに強い」というイメージが定着している。コロナ禍中のインバウンドがない間、国内宿泊施設の皆さまに対していかに国内需要をお届けできるかに腐心、注力してきた。成果は出ており、22年の国内客の予約数は19年の数字を超えている。
日本には日本のシーズナリティ、ピークシーズンがあり、日本の旅行業関係者はそれに応じてさまざまなキャンペーンや施策を打つわけだが、今までの私たちはグローバルの動きに足並みをそろえて、グローバルのキャンペーンに順ずるという姿勢だった。22年はこの殻を破り、日本のゴールデンウィーク、シルバーウィークなどに沿った形でのマーケティングキャンペーンを張り、国内客需要をしっかりとお届けした。今までインバウンドに寄りかかって努力が足りなかった部分があったのかもしれないと自省し、商売の原点に帰った。
サステナブル・トラベル、SDGsにも積極的に取り組んでいる。これは一つ一つブロックを積み上げるような地道な努力が必要な分野だが、私たちもできる限りのサポートをさせていただいている。先日、宿泊施設を対象とした「サステナブル・トラベル」プログラムに新たに3段階の評価制度を導入することも発表した。ブッキング・ドットコムでは、サステナブルな取り組みのフィルターで宿泊施設の絞り込み検索もできるようになっている。
ブッキング・ドットコム 竹村章美氏
――各社の23年の展望、取り組みについて教えてほしい。トリップ・ドットコムから。
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