【2023新春 旅館女将座談会】日本の宿古窯 × 南三陸ホテル観洋 × 水織音の宿山水荘 × ホテル小柳


女性同士で会話も弾んだ(会場は東京都千代田区・パレスホテル東京)

女性パワーで苦境を乗り切る

 地震や水害、そしてコロナと近年は災難が続いています。しかし、そんな状況でも笑顔を絶やさず元気に働く旅館の女将たちがいます。ここでは、東北を中心にそうした女将さんたちに集まっていただき、悩みや女将の役割などについて語っていただきました。出席者は佐藤洋詩恵さん(山形県かみのやま温泉・日本の宿古窯)、阿部憲子さん(宮城県南三陸温泉・南三陸ホテル観洋)、渡辺いづみさん(福島県土湯温泉・水織音の宿山水荘)、野澤邦子さん(新潟県湯田上温泉・ホテル小柳)の4人。コーディネーターを山崎まゆみさん(温泉エッセイスト)が務めました。

女性同士で会話も弾んだ(会場は東京都千代田区・パレスホテル東京)

 

 ――(コーディネーター=山崎)コロナ禍から約3年、東日本大震災から約11年が経過しました。自館と県観光の現状について。まず福島県の渡辺さんから。

 渡辺 私は福島県ということで、3・11やコロナという感染症の中で助成金や補助金といった支援施策をやっていただいた、国や行政の皆さまにまずは感謝と御礼を申し上げたいと思います。そういう大変な時期に支援がなければ本当に今はありませんでした。

 コロナ禍で山水荘は、お客さまから露天風呂付きやベッド付きの部屋はないのか、会食は個室がないのかという要望が多かったので、思い切って半年間お休みをして、5月17日に新たに「紫水亭」という 15室の露天風呂付きのベッド付きの部屋を造りました。さらに完全個室の料亭とオープンキッチンのダイニングレストランも造りました。まだ大浴場にサウナや露天風呂を造っているところで、それが終わってリニューアルが完了します。感染を避けて安全、安心に宿泊したいというお客さまニーズに合わせた旅館づくりをしています。

 観光として福島県は、原発という風評被害がいまだにあります。今は全国旅行支援のお客さまとインバウンドのお客さまの両方がお越しいただいおり、早い回転で戻りつつあるというのを実感しています。特に香港と台湾とタイのお客さまがお越しなっています。そういう客層にガラッと変わって、活性化になっています。本当に感謝したいと思います。

 11月29日には原発の沿岸部の復興施策の視察をするために世界の大使が10人いらっしゃり、当館にお泊まりいただきました。今の福島県の本当の状況を皆さんの目で見て、世界に発信していただけるということで当館でレセプションを行っていただきました。このような機会を多く作って県の観光、国、世界の観光が一緒につながっていけば観光が活性化すると期待したいです。

 

渡辺さん

 

 阿部 私どもの会社は本社が気仙沼にあり、水産業と観光業の両輪で営業をしております。東日本大震災では沿岸部の被災が激しく、水産業が大きく被災しました。それが9年たって今回のコロナ禍では観光業が大きなダメージを受けてしまいました。震災の時には、公の避難所ではなかったのですが、私たちの宿を頼って大勢の住民が避難所として過ごすことになって、その後にはライフラインの工事の関係者や医療ボランティアなどの拠点にもなりました。今回のコロナ禍では病院の代わりに患者の受け入れをされたホテルもありましたから、二つの国難の時に非常に宿泊産業が社会から求められるとリアルに感じながら過ごしています。

 自分の会社では震災の時に「負けない」とか「諦めない」という気持ちをいつも持ち続け、「歩みを止めない」という考え方で苦難を乗り越えたので、コロナ禍に遭遇しても同じ考えでした。始めに、地元の経済が低迷していたので地元を盛り上げようと「地盛券(じもりけん)」という金券を考えて2020年3月に発行いたしました。次に、旅館の仲間も大変なのでみやぎおかみ会を通じて、「宮城お宿エール券」という1万円で1万3千円分の前売券を考えて、5月の連休明けに売り出すと思った以上に販売することができました。エール券と命名したのですが、お買い求めいただいた方から「頑張ってください」とか「コロナが落ち着いたら必ず行きますから」と言っていただいて応援の言葉が添えられていたのです。その後、行政の方でも「宿泊割」などいろいろな手立てを考えてくれるようになり、今は全国旅行支援ということで業界も人の流れが見えてきました。

 

阿部さん

 

 野澤 地震というと全国の方が新潟を思い出すくらい新潟も大きな被害を受けています。3・11の時にはすごい被災の映像が流れたこともあり、新潟の皆さんも明日にも地震が起きるかもしれないという不安を持って日々を過ごしていました。

 今回のコロナ禍では、生まれて初めてお正月のお客さまが半分もいない。連休は休館している。では何かやろうかといっても、何から手をつけていいのか分からない状況でした。そのような中で各お部屋に入れています苔玉をみんなで作ろうという話になり、社員みんなで作りました。また、休館することになり、ご予約いただいているのに申し訳ないのですが、休館させてくださいとお客さまにお詫びの電話をすることになりました。そして、キャンセルをお願いしたお客さまに何かできることはないかと考え、私たちの着物や社員の制服の古いものを裁断してコースターと手差しを作り、それをお贈りしました。休館の後、そのお客さまが手差しをしてまたお越しくださったり、コースターを持ってきてくださったりしてとてもうれしく思いました。

 新潟は全国3番目の温泉地です。湯田上温泉は4軒だけの本当に小さい温泉地ですが、月岡温泉、瀬波温泉、湯沢、妙高と本当に大きい温泉地がたくさんあります。そうした温泉地もみんな大変な思いをしていましたから、新潟県としても、いろいろ対策をなさってくれました。県民割などの支援策もいち早く進めてくださいました。お客さんも喜んでくださったし本当にありがたく思います。コロナ禍はもう3年なので長すぎて、一早く普通に戻りたいというのが今一番の願いです。

 

野澤さん

 

 佐藤 日本列島は海洋に浮かぶ火山列島。だからこそありがたいことに私たちは天の恵みのお湯を使わせていただき、宿の生業をさせていただいているのです。

 この国は地震など天災も多く、難儀なことですが、防災意識を高め、危機管理能力を身に付けて、これからも自然と共に生きてゆくしかないのです。

 人間が生きている以上、人間が進化するように菌も進化し、病原菌との戦いは続きます。ウィズ・コロナの知見を多く集めて、指針を作り、私たちの日々の暮らしに生かしてゆくことが求められます。国と地方の連携を密にして、国民の命を守りつつ、経済を停滞させないネットワークを早く構築していただくことを願っています。

 山形のコロナ対策は、吉村美栄子知事が、女性の視座、感性を発揮して、県民の安全、安心を優先させながらも迅速に苦境の観光業界を支援していただき、感謝しています。山形はよく一周遅れのトップランナーとかいわれますが、コロナ禍の後は、3世代同居率日本一。女性の就業率が高い山形県は飛躍できると思います。後継者である若旦那も多く団結して、自分たちの住む地域の情報発信に力を入れています。やまがた女将会のメンバーも元気です。旅館同士仲が良いのも、山形の強みと思います。よそ者の私は、山形になじむのに長い月日を要しましたが、年を重ねてこのようなコミュニティこそが、地域を守り発展させる大きな力ではないかと思い始めています。

コロナ禍を経てのグローバルな時代、宿も旅の形態もライフスタイルも変わると思います。まさに不易流行を胸に深く刻んで、地方にある宿の存在価値を高める努力を続けてまいります。

佐藤さん

 

 ――旅館経営で悩み事や女将の役割などをお話ください。(山崎)

山崎さん

 渡辺 人手不足と物価高騰による経営のバランスがこれからどうなっていくのかということです。不安がたくさんある中でお客さまがこれから旅行をしたいという気分になるのかが非常に心配です。今はお客さまがどっといらっしゃって、人手不足で経営者がみんな現場で受けるような状況でございます。人件費の高騰も悩みです。私たちが嫁に入った時は生活苦だったので働きたいという人たちばかりでしたが、今の若い人は賃金の話から始めます。働くことの意識が変わっています。

 それから地域の活性化ですけど、お客さまの旅のスタイル、ニーズが変わってきている中で、リピーターを作ることが大事だと思っています。景色や自然環境、料理、温泉などここに来ればこれが楽しめるという地域の強みを掘り起こし、ファン層をできるだけ獲得すること。今の時代に即した地域づくりと旅館づくりをやっていきたいと思います。それには若い人たちをもう少し生かす。うちは若旦那と娘たちが頑張っているので安心しています。

 

 ――人材不足の話では、女性が働きやすいようにセントラル託児所付きの寮がほしい、そういう支援がほしいという意見を聞いたことがあります。

 阿部 今いろいろ観光の施策が練られて私たちも取り組んでいるのですが、そういうチャンスを与えられているのは観光がすそ野の広い産業で、重要だからそういうふうになっていると思うのです。コロナ前は東北地方はまったくそうでもなかったのですが、京都や東京はオーバーツーリズムが問題でした。コロナの今が一番それを考えるべき時期なんですね。本来ならばこのことをきっかけに分散ということをもっと考えるべきと思います。特にローカルの方はまだまだ集客できる、まだまだお越しいただきたいという強い考えを持っていますから、ぜひそういうことを業界全体でも考えた方が良いのではないかと思います。

 一方で私たち旅館は人手不足ですが、移住、定住が増えると私たちは働き手を得られます。逆を考えると私たちにチャンスさえ与えてもらったら人口を増やせるんです。今人口が足りないと言っている中で、私たちは人手がなくて困っているんですというのがたいていの旅館経営者の悩みですから。

 野澤 新潟県の「消費喚起・需要拡大プロジェクト」応援事業補助金を使い、地域活性化については、新潟はお酒、花火、地場の食べ物、この三つを取り上げてまずは女将会でリレーをやりました。今回は湯田上温泉、妙高、月岡、蓬平、この4地域に花火を上げて11月から2月までの4カ月にまたがってイベントを取り入れました。今こういうコロナ禍で皆さんが弱っている時なので宣伝する予算がなく、ホームページを持っている旅館や観光協会が情報を発信したのですが、一般のお客さまになかなか伝わらなかった。それが今回の反省です。

 それから田上町は小さい町ではありますが、タケノコや竹が有名です。地元の竹林を持っている方のご協力を得て竹を全部切らせていただいて、10月1日から10月31日まで竹林のライトアップをして、そこをぐるっと散策をできるようにしました。すごくきれいでした。田上町の青年部がみんなボランティアで毎日、駐車場をご案内しました。それだけお客さまが大勢いただいた。それを1カ月間見ていただいて、あと椿寿荘も竹を飾りました。

 佐藤 私の持論ですけど、女性が元気な地域、会社は発展する。女性が元気な所には、女性を導き引き立て、能力を高め、応援してくれる理解ある男性の存在があるから。女性の活躍を心から拍手してくれる度量のある男性が、行政の場も含めて増えると良いですね。

 コロナ禍の国難を乗り越えるのは人の力。人は人に助けられ、感化しあい、人は人に魂の言葉を頂く。女将としての日々は、あの言葉があったから今があるということの連続です。宿は命の居場所であり、社員と共に生きる場、地域の皆さまに必要とされる場です。利他の精神を尊び、良いものは良いと称賛しあう寛容なる社会を作り上げていきたいですね。

 私たちの一番の悩みは事業承継。私は今、ファミリー企業の事業承継における母親のポジショニングの大切さを実感しています。どんな形であれ、文化を含めて引き継ぐ。戦争の話を伝え聞き、戦後のことも知っている私たちがしっかりと後世に思いのバトンを渡すことが大事だと思います。

 

 ――最後に2023年の抱負を。

 渡辺 2023年は、うさぎ年なので大きく飛躍したいですね。私もコロナ禍でどうすれば良いか分からないことが多く、3年間以上勉強させられましたが、やはり菌と共に共有をしていかないと経済が回らないと思っています。この加速を止めない。うさぎさんはピョンですが、そこまでいかないけど、ゆっくりゆっくり一歩一歩、進んでいきたいなと思っております。今、情報化の時代で若い人たちがすごく情報を持ってきてくれるので、国、省庁と連携して観光をさらに進化させて、世界から多くのお客さまにお越しいただきたいと思っています。

 阿部 コロナ禍で旅がネガティブに捉えられてしまっていることがすごく心配なんです。私たちはお客さまと接していても旅好きの方は長生きされているなとか生き生きされているなと感じるので、そういう裏付けを積極的に出して、旅行のネガティブなイメージを変えた方がいいと思っています。

 旅館は400年とか600年とか歴史があるところが多いですよね、それは必要とされてきたから。私たちが動けば建設業界も忙しいし、いろいろな産業の人が活気付く。それがコロナでのれんを下ろすことがないように行政や金融機関の方々もよく考えていただきたい。

 野澤 新潟では今年はぜひ世界遺産になる佐渡に多くの方にお越しいただきたい。私たちは佐渡に一番近い温泉地なので、社員旅行で佐渡へ行きました。お泊まりいただいたお客さまに佐渡のことを説明するのに「行ったことありません」では話にならないから、たらい舟など佐渡でやっている最低限のことを社員が体験してきました。

 おいでいただくお客さまは温泉に入りたいのもありますが、出かけて行って宿を助けてやろうという気概を持っているお客さまが多い。女将としては、このコロナ禍で安心安全というものに気を配っていきたいと思います。

 佐藤 この素晴らしい仲間と共に仕事ができて幸せです。今年も頑張りましょう。私の恩人である江口さん(観光経済新聞社前社長)は、観光業は日本の柱、基幹産業になると言い続けてきました。観光は地方創生の源、女将は日本文化の担い手とお励ましいただきました。今世紀は人類大交流の平和産業である観光の時代。私たちの業は、最大の輸出産業になることを信じ、国内外からのお客さまに、誇りをもっておのおのの温泉地の素晴らしさを伝えてまいりましょう。コロナ禍後、一番行きたい国は、日本ということ。日本の観光業界は、希望に満ちていると思います。

 

 ――地域を代表する旅館の女将の皆さまからのお話は、やはり地域の意見がそのまま反映されていますね。旅館は地域経済のインフラを担っていますから、皆さまのご努力こそが地域経済の発展につながるのだと感じました。

 今年も私は全力で旅館を応援していきたいと思います。

 

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