【2023新春 旅館若手経営者座談会】登府屋旅館 × 松本楼 × つつじ亭 × ホテル銀水荘 × 延楽× グランディア芳泉  


2023年にさらなる飛躍を誓う6氏

コロナは飛躍への契機  環境変化に強い宿づくりを

 コロナ禍の影響など、環境変化が続く中でも着実に業績を上げている旅館・ホテルがある。いかにして変化に耐えうる組織の構築や、新たな取り組みへの挑戦、実益確保へとつなげていくのか。気鋭の旅館・ホテル経営者6氏にお集まりいただき、語ってもらった。(東京の観光経済新聞社で)

 

 

 ――自館の特徴、経営の現状について伺いたい。

 遠藤 13室の小さな宿。当館は、バリアフリー、落語、サウナの三つを特徴としている。バリアフリーは、2014年から取り組みはじめ、車椅子でも安心して泊まれる宿を目指してきた。以前も段差は少ない宿だったが、「車椅子でも大丈夫です」と自信を持ってお迎えできるように、部屋の改装や貸し切り風呂の新設など時間をかけて整えてきた。おかげさまで、温泉総選挙2022のバリアフリー部門で全国2位の評価をいただくまでになった。落語やサウナは、バリアフリー以外の新たな価値を創るために始めたもの。落語は、不定期で落語会を開催してきたが、2021年は温泉地を題材にした「ご当地落語」を落語家とともに作って披露した。サウナは、貸し切りサウナを新設し、新たな客層が増えた。全国旅行支援が始まっているが、11月14日から風呂の工事が始まった。不運なタイミングで休業も覚悟したが、サウナと客室の日帰り利用をセットにした新たなプランで温泉なしでも営業ができた。

登府屋旅館 代表取締役社長 遠藤直人氏

 

 ――落語の取り組みは、業界で話題となっている。

 遠藤 コロナ禍となり、旅館、落語家とも時間があったからこそできたコロナを逆手にとった取り組み。落語家が4泊5日で温泉地に滞在し、最初の3日間で取材や現地見学を行い、3日目にはネタを1日で作り上げ、4日目には現地でネタを披露する。タイトな日程の中、1人1ネタずつ作ってもらった。他の温泉地でも同様に開催し、結果24席の温泉地にまつわる新作落語ができた。落語会の会場は、当館では30人程度のキャパシティしかなかったが、有料配信を行い、100人以上の方が見てくださった。地方発の芸能を東京はじめ遠方で楽しみ、さらに現地を訪れるきっかけになった。地域に根付く旅館業だからこそ生み出せた新たな文化といえる。当館は、私が好きだったから落語を選んだが、旅館には隣と異なること、面白いことをする余地、素養の広さはまだまだある。

 

 松本 当館も以前からバリアフリーの取り組みをしている。ハードのバリアフリーに加え、食、心のバリアフリーを整備している。「観光施設における心のバリアフリー認定制度」は、第1弾で認定を取得し、手話などの研修や、クロックポジションなど視覚障害者へのサポート、盲導犬への対応を学んだ。また、一番大事なこととして、心のバリアをなくす意識を共有している。食の対応では、流動食からベジタリアン、ビーガンなどに対応している。ハラールは対応の大変さ、需要の少なさで辞めたが、基本的には旅行弱者の方を受け入れている。受け入れは、コロナの少し前から団体から個人にかじを切った。コロナ禍で売り上げはなくなったが、空いた時間をチャンスと捉え、2カ月間を研修に充てた。土日休みの「松本楼学校」を開講し、午前9時から午後6時まで、歴史、お金、時間、茶道、花、英語のほか、従業員の意見で上がったラッピング研修なども取り入れながら行った。雇用調整助成金の研修加算でいただいた費用は、全て講師費で使った。良い経験、効果となっている。また、コロナ禍を支援する補助金を活用し、毎月何か新しいものが出来上がる環境を作った。象徴的なものとして、玄関の入った場所にガラス張りのパン工房を作った。旅館は、松本楼を含めて2館あるが、朝には焼きたてのパンなどを提供している。今後は、冷凍パンやスイーツの提供を考えている。館内では、個室の食事処や宴会場を潰し、とんかつ屋も始めている。このほか、11月18日には、パン屋を伊香保の石段街の240段目に店を借りてオープンしたほか、廃業した旅館を購入してワンちゃん連れ専用にリニューアルした宿を今春にオープンする予定だ。30年までには10拠点にし、人材が活躍できる場を作っていきたい。売り上げについては、ありがたいことに好調だが、今はスタッフの体が心配で休みを優先にしている。コロナ禍は赤字、赤字で来たが、黒字に転換した。経費はスリム化でき、ロボット掃除機や自動精算機の導入など、DX化も進めたことで、今は7割の売り上げがあれば利益が出る体制となっている。利益が出ることで、夢が広がっている。

松本楼 代表取締役社長 松本光男氏 

 

 宮嵜 当館はわずか10室しかない旅館。そのうち4室が離れの客室で、本館と離れは渡り廊下で結ばれている。敷地は5千坪と大きく、約3千坪は、自然林を野趣あふれる庭としており、館内から白根の山並みを望むなど、自然が寄り添った時間を過ごせるようになっている。離れのうち2室は、湯畑の近くの旅館を廃業後、増築したもの。今年の改築で全ての部屋で温泉が楽しめる。当館より高い旅館が草津には増えてきているが、総費用単価は3万6千円ぐらいあり、30年前から変わらないのはありがたい。客室稼働率は年間で80%ぐらいだ。コロナ後で宿を全開できなかったが、ありがたいことに一定数のお客さまが入ってくれた。今の課題の一つに人手不足がある。今後は属人化した対応ではなく、大規模チェーンホテルが実施するマルチタスクの導入を、当館のような小規模旅館も検討している。部屋数についても、サービスを保つため、今度は引き算をしていずれは部屋数減への変更も検討している。

つつじ亭 代表取締役社長 宮嵜正雄氏

 

 ――インバウンドの戻りはどうか。

 宮嵜 戻ってきている。欧米系の人を湯畑でも見かけるようになった。昔は中国の人が多かったが、今は同じぐらいの人数だ。

 

 加藤 伊豆半島の東海岸・稲取に銀水荘と、西海岸の堂ヶ島にニュー銀水という旅館の計2店舗の大型旅館を経営している。銀水荘は100部屋、ニュー銀水は123部屋ある。コロナ前のインバウンドのシェアは4、5%だったので、影響はほぼなかった。だが、国内の大型団体がなくなったことは痛い。閑散期には1千人クラスを受けていたこともあり、人員ベースでシェアの35~40%がなくなった。コロナ2年目には平時の50%となった時もあったが、3年目の今は、売り上げベースで70%まで戻ったが、団体から個人へとシフトするほか、損益分岐点を下げる努力をしている。15年前に実家の伊豆に戻った際には、親父からは「旅館はもうかる、すごいぞ」と言われ、大勢による大宴会、行列が並ぶ売店を目にしてきた。3年前の12月に社長となったが、すぐにコロナが旅館を襲った。これ以上下がることはないと言われる中でも下がり続け、全館休業、借り入れもした。だが一方で、自分たちの時間が生まれ、まず社員との対話を行った。現在は、社員と非正規を合わせると約350人いる。若手、ベテランを含めて、さまざまな価値観がある中、不安や不満、今後やりたい仕事、どんな人材になりたいかまで、とことん話し合った。人材不足の中、コミュニケーションが人材の成長だけでなく、維持の面でも重要だと感じている。補助金を活用したハードの改装もしているが、やはり今後を見据えるとソフトの改善は欠かせない。私が社内の潤滑油となりながら、さまざまな取り組みを推進していきたいと考えている。

ホテル銀水荘 代表取締役社長 加藤晃太氏

 

 濱田 85年目で、客室が60部屋ある。コロナ禍で販売客室は、団体などで使う本館をバッサリ切って半分に削減した。創業者は料理人出身で、個人向けの料亭旅館を目指していたことから、原点回帰を行う矢先にコロナ禍に巻き込まれ、当館も加速度的にさまざまな対応をした。経営努力もあり、今は消費単価をコロナ前よりも上げることはできたが、物価、原価の上昇は厳しい。これからの冬の季節が主となるカニは顕著。とはいえ、ただ原価が上がったから販売価格も上げるとなると、それをお客さまにどうご納得いただくかに苦心をする。付加価値を付けた上で、変わったということを明確にしなければと、今は悩み、苦しんでいる。

延楽 専務取締役 濱田 賢氏

 

 ――食材費、燃料費、水道光熱費などの値上げは大きく苦労していると聞いている。どう対応しているのか。

 濱田 ヒートポンプを導入し、温泉の熱をエネルギーとして使うことなど、対策を取っている。全て整うのは今年にはなるが、さまざまな手を打っていきたい。

 

 山口 当館の特徴は「時代に合わせた旅館スタイルの確立」と「改善する力」が強くスピードがとても速い旅館だと自負している。時代に合わせるというには、とにかく周りと違うこと、新しいことを行うことではない。お客さまへ提供するサービス、そして料理、設備、雰囲気づくり、社員が醸しだす空気感などを、毎日毎日向き合うことで、品質を維持し進化させて提供すること。その結果安定した良いアンケートをいただける。これを維持した上で、初めて新しいことにチャレンジし続けられる。このサイクルを常にやり続けている。社長専務の妥協しない理想や、女将のサービス品質維持に対する思いは、トップレベルと言える。それに加え、週に1回行っている役職者会議で、役職者自らが改善の先頭、中心になっている組織力がわれわれの強み特徴だ。自己満足でない、高品質な唯一無二の温泉旅館を目指している。115室ある大型旅館だが、コンセプトはしっかり分けることができている。皇室の方や著名人の方が宿泊される、庭園露天風呂客室の別邸、離れ。お部屋食と個室料亭、ご家族や小グループに提案させていただく「さくら亭」、若狭牛しゃぶしゃぶ懐石、女子旅やカップルには「ここみち亭」。さらに高層階の新館客室、食事は極上ディナービュッフェなど。ここまで多彩なテーマ別でご提案できる温泉旅館は少ないはずだ。JALファーストクラス機内食監修の料理長がいるので、ここまでの幅広い料理提案を可能にしている。コロナ禍では休館する日もあったが、売り上げや集客、コスト管理あらゆる面で良好になっている。コロナ後の個人対応も、従来の今までのお客さまからも、新しいニーズのお客さまからも支持をいただいた結果である。これも、当館ならではの特徴から生まれた良い結果だと思っている。

グランディア芳泉 常務取締役 山口高澄氏

 

 ――自館で力を入れている取り組み、成果について伺たい。

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