【2024新春宿泊4団体トップインタビュー】全日本ホテル連盟会長 清水嗣能氏


全日本ホテル連盟会長 清水嗣能氏

業界全体で変革を推進、今こそ「脱皮」が必要

 ――2024年の宿泊業界の回顧を。

 まず真っ先に思い浮かぶのが、元日に発生した能登半島地震だ。北陸新幹線の延伸開業を控えたその矢先の出来事で、宿泊業界に大きな打撃を与えた。私が福井県で経営するホテルでも大いに影響を受け、1月だけで1800万円に値するキャンセルが発生した。その後も南海トラフ地震臨時情報の発表や、能登半島・宮崎県での豪雨災害が続き、毎年のように災害に見舞われる時代に突入しているのだと痛感している。

 都市部では、インバウンド需要が回復し、ホテルの客室単価が大きく上昇した。特に都内のビジネスホテルでは、客室単価が2万円を超える状況もみられ、連盟の宿泊費用も1万2千円から1万5千円へと引き上げたが、さらに引き上げが必要な状況だ。

 福井出身の身としては、北陸新幹線の延伸開業も大きなトピックだ。(長野―金沢間が開業した)10年前、交流人口の伸びは金沢が2・5倍、富山が2倍、福井は1・5倍増と予測されていたが、今回の延伸でまさにその通りとなった。しかし福井市内だけをみても恩恵に差があり、駅前は新しい店舗やホテルができて活気づいている一方、駅から離れた地域では開業効果を感じられていないとの声も聞く。宿泊客も比例して増えるわけではないのが悩ましいところだ。

 ――連盟事業を振り返ると。

 「観光立国の実現と地域の発展に寄与する」というミッションのもと、積極的に事業を推進してきた。人手不足については、会員に実施したアンケートから約8割が人手不足に悩んでいることが明らかになった。コロナが明け、宿泊客は戻ってきているが、宿泊業界に対する評価は十分に戻ってきているとは言い難い。この業界は、「土日や連休、お盆、お正月など人が休む時に忙しい」「朝は早くて夜も遅い」といったイメージがある。しかし、お客さまに喜んでもらってこそ価値があり、お客さまの良い思い出作りをお手伝いすることが、宿泊業界の本当の仕事だということを皆さんにお伝えしたい。その一環として、昨年3月に福岡県で「ホテル産業フォーラムin九州」を開催した。ホテル業界のチェーン店関係者が一堂に会し、自社の取り組みや業界の魅力を伝えるとともに、より多くの人々がホテル業界に興味を持ち参入してもらうための方策について議論を深めた。今年は3月に愛知県名古屋市で開催する予定だ。

 また、業界の魅力アップに向けた呼び掛けにも努めてきた。団体は、個人では実現が難しいことを集約し、大きな声として行政に届ける「拡声器」的な役割がある。今年もさらに力を入れ、業界全体の発展に寄与したい。

 ――25年の業界の展望と事業について。

 インバウンド需要は引き続き好調に推移し、レベニューマネジメントの浸透や客室単価の上昇、新たなホテル建設が進むと予想している。一方で、都会に集中する需要を地方にどのように振り分けるかが大きな課題だ。

 また、人手不足を背景にDX化への対応も加速すると感じている。現在は旅館業法によってフロントの設置が実質的に義務化されているが、法改正が進めば、省人・無人化が一気に広がる可能性がある。昨年JARC(宿泊施設関連協会)が開いた会に参加した際、業界向けのDX関連システムを手掛ける企業がこんなにも多く存在することに大変驚いた一方、このことが業界内で十分に認知されていないと感じた。企業とのマッチングや情報共有の場を増やすことが急務だと感じている。

 業界のイメージ向上には労働条件の改善が欠かせない。その実現のためには、売り上げアップと高単価化に対するお客さまの理解を得る取り組みが必要だ。これらを業界全体で推進することで、さらなる発展を目指していきたい。

 ――連盟事業は。

 来年度、新たな委員会として「長期ビジョン検討委員会」を設ける。現在会員数は1400軒を超え、そのうち約8割がチェーン店。長期的な視点で目標や戦略を策定し、持続可能な発展や課題解決に向けた明確な指針を示していきたい。

 ――団体トップとして業界の経営者に訴えたいことは。

 最優先で訴えたいのは、従業員の給料を上げ、労働条件の改善を図ること。そのためには客室単価を引き上げ、売り上げを伸ばし、その利益を従業員に還元する仕組みを確立することが不可欠だ。一歩踏み出す「Let’s」の精神で取り組んでいこう。

 実は今、宿泊業界の経営者の皆さんに向けた本を執筆している。表題は「脱皮しない蛇は滅びる」。私が経営するホテルリバージュアケボノは、旅館からビジネスホテルへ、ビジネスホテルから観光ホテルへと変革を遂げてきた。こうした経験を踏まえ、「これまでのやり方に固執していては成功できない」ということを、本を通してお伝えしたい。

 禅語に「啐啄(そったく)同時」という言葉がある。これは鳥のひなが卵の殻を破って生まれる時、親鳥が殻を叩く音を察知し、外側から殻を突いて助ける状況を指す。内外のタイミングが合わなければ、ひなは生まれない。宿泊業界においても、タイミングと協力の一致が重要だ。ホテル経営には常に新しい視点を取り入れる必要があり、その過程で必ず訪れるもがく時期には、さまざまな人のアドバイスを求めたくなるものだ。

 そこで重要なのが、「交流と直流の切り替え」だ。他者の意見を聞く「交流」も大切だが、いつまでも聞き続けていると軸がぶれてしまう。「これで行く」と一度決めたら、競走馬のように一直線に突き進む覚悟が必要だ。こうした考えを込め、「独立系ホテル経営者に贈る言葉」という副題を本に添えた。

 これまでに申し上げた給料アップやDX化に関しても、従来の固定概念にとらわれず変革を進めるべき。業界全体で「脱皮」が必要な時期を迎えていると感じている。


全日本ホテル連盟会長 清水嗣能氏

 
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