【2024新春宿泊4団体トップインタビュー】日本ホテル協会会長 定保英弥氏


日本ホテル協会会長 定保英弥氏

スピード感持って業界の魅力を発信、官民連携も

 ――2024年の宿泊業界の振り返りを。

 円安を背景にインバウンド需要が順調に伸び、宿泊業界に活況が戻ってきた1年であった。一方、元日に発生した能登半島地震の発生は非常に残念だが、金沢の会員ホテルが2次避難場所として協力させていただいたほか、宿泊4団体が要望した北陸応援割が3月から実施され、業界にとって大きな助けとなった。

 会員ホテルの稼働率は上半期で70%台に達し、ADR(客室平均単価)や売り上げも上昇した。特に外国人宿泊客の比率が高い京浜・京阪地区では、平均単価がコロナ前を大きく上回り、3万5千円台に到達するなどインバウンド効果を実感している。他方、日本人宿泊客の比率が高い地区では、平均単価は1万5千円にとどまり、単価の伸び悩みが課題だ。また貸借対照表をみると、2023年3月末で負債比率は387%に達し、財務基盤の厳しさは依然として深刻である。利益を確保しつつ返済を進める中で、コロナ禍に滞っていた設備投資の再開も必要なため、引き続き厳しい状況が続くとみている。

 また、全国的に宿泊税導入の動きが加速している。観光業界全体をよくしていこうという目的であれば大賛成だが、安易な導入は避けるべき。当協会では、地域ごとに導入へのスピード感や方向性に差が見られるため、支部ごとに地域ごとの事情に応じた対応を進めているところだ。

 ――人手不足が喫緊の課題となっている。

 宿泊業界では、コロナ前と比較して1割弱の人員が不足しており、レストランの時短営業や休館日の設定、宴会の受注制限などの対応を余儀なくされている。特に、新しいホテルの開業ラッシュが相次ぐ中、清掃スタッフの確保が難しくなってきている。

 加えて、育成面でも課題がみられる。ホテル・調理関係の専門学校の入学者数は、コロナ前と比較して半減しており、待遇面の改善を含めた人材確保が急務だ。

 ――協会事業を振り返ると。

 会員ホテルの協力のもと、人手不足への対応を含め、積極的かつ前向きな取り組みを進め、細部にわたって成果を上げることができた。

 人材確保では、講談社と連携してホテルの仕事を紹介する漫画を制作し、協会のホームページで公開したほか、求人サイト「マイナビ」とも連携して特設ページを設置し、一定の成果が見え始めている。また、漫画を冊子化して専門学校や大学への配布も行った。

 さらに新たな取り組みとして、全国の大学でホテルマンが業界のリアルな姿や仕事のやりがいを語る「出前講座」を開始した。若い世代の皆さんに働きたいと思ってもらうには時間を要するかもしれないが、地道に取り組みを続けていきたい。

 要望活動も積極的に行った。税制面では、接待飲食費の上限が5千円から1万円に引き上げられた。これは政府への税制改正要望の成果であり、企業間取引や観光需要の拡大に寄与する新たな機会を生んだ。また、「年収の壁」問題についても同友会の皆さんと連携し、あらゆる要望活動を展開している。

 宿泊業はハードワークのイメージが強く、若い世代の皆さんがのびのびと笑顔で、健康的に働ける環境づくりが欠かせない。その一環として、健康経営セミナーの開催や、「健康経営優良法人」の認定申請に向けた補助支援制度を設け、会員ホテルの後押しにも取り組んだ。

 需要が高まるインバウンドへの対応については、オンライン英会話講座の割引制度を導入し、会員ホテルの従業員が効果的にスキルを磨ける環境を整えた。

 ――25年の宿泊業界の市況をどうみているか。

 いよいよ4月から大阪・関西万博が開幕する。インバウンドと国内観光需要の活性化に大いに期待している。一方で、世界経済やトランプ氏の大統領復帰による為替の影響は注視したい。

 飲食面では、コスト上昇による価格改定が続き、国内市場の反応を見極めながら適切な価格設定とサービス提供を模索していく必要がある。宴会需要については、依然として不透明ながら、国内の法人企業の経営環境次第で回復が期待される。全体的に大きな落ち込みは予想されておらず、ポジティブな展開が見込めるはずだ。

 人手不足については、宿泊業の魅力を若い世代にスピード感を持って伝えていくことが重要だ。官民連携を図りながら業界の魅力を発信し、「働きたい」と思ってもらえる環境を整えていきたい。

 ――協会として重点的に取り組む事業は。

 インバウンド需要に対応するため、公式インスタグラムを開設し、当協会のブランド向上を図る。ホテルの魅力に加え、会員ホテルが所在する北海道から沖縄までの地域の魅力や歴史、文化もあわせて発信する予定だ。全国各地の魅力を広く伝えることで滞在時間を延ばし、より多くの地域を訪れていただけるよう促進していく。

 SDGsへの対応も組織全体で取り組んでいきたい。当協会では「社会的貢献に対する表彰」を通じて推進を図っており、各会員ホテルでバリアフリー化、フードロス対策、カーボンニュートラルなどの取り組みを進めている。廃食油を活用した持続可能な航空燃料(SAF)製造への協力も検討しているところだ。

 ――会員の増強について。

 さらに増やしていきたい。そのためには、会員がメリットを実感できる取り組みの推進が不可欠だ。コロナ以降据え置かれている会費の見直しも視野に、会員拡充に向けた適切な体制づくりを検討していきたい。

 ――読者にメッセージを。

 観光業は日本の基幹産業となり得る分野であり、われわれ宿泊業は観光業を支える基幹インフラとして重要な役割を担う。安心・安全で質の高いおもてなしをお客さまに提供し、その責務を全うしてまいりましょう。


日本ホテル協会会長 定保英弥氏

 
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