【2024新春宿泊4団体トップインタビュー】日本旅館協会会長 桑野和泉氏


日本旅館協会会長 桑野和泉氏

守るもの、変えるもの見極め業界の未来切り開く

 ――2024年の宿泊業界を振り返ると。

 まず思い浮かぶのは度重なる災害。元日に起きた能登半島地震、山形での大雨、「超ノロノロ台風」と言われた台風10号、そして宮崎県日向灘での地震と、その後発表された南海トラフ地震臨時情報「巨大地震注意」。中でも「巨大地震注意」の発表は、メディアでも大きく取り上げられ、せっかくのお盆シーズンにも関わらず一気に自粛ムードに。国内だけでなく外国人のお客さまからのキャンセルも相次ぎ、私たちは多大な影響を受けた。

 一方で、インバウンドはコロナ前と比べても順調に伸びている。大変喜ばしいことであるのと同時に、オーバーツーリズムという大きな問題も再燃している。その半面、地方では、まだインバウンドが戻っていない状況にある。加えて、航空燃料の調達不足により、せっかくのインバウンド客の取りこぼしも発生したといったこともあった。

 業界の地位を向上させながら、地域の魅力をもっと伝えていかなければならないということを痛感した1年だった。

 ――協会の事業は。

 金融問題に関しては、9月に私の地元、由布院で「宿泊業界における観光と金融に関する全国懇談会」を開催。観光庁長官、中小企業庁長官、金融庁監督局長、九州の多くの金融機関の皆さま、そして私たち宿泊業界の皆さまにご参加いただき、地域観光の現状、今後の業界発展のために必要な金融支援について議論をした。

 基調講演には菅義偉元首相からのビデオメッセージをいただき、「30年までにインバウンド6千万人、消費額15兆円の達成に向けて官民一体となったさらなる取り組みが必要である」と力説いただいた。漫画家、文筆家、画家として活躍されておられるヤマザキマリさんにも基調講演、パネルディスカッションに登壇いただき、温泉文化の素晴らしさについて講演いただいた。

 前年に引き続き2度目の開催となった懇談会だが、関係者が膝を突き合わせて話をするということに非常に大きな意味があったと感じている。

 基調講演の中で金融庁の伊藤豊監督局長が仰っていた、「一歩先を見ましょう」という言葉が印象に残っている。今現在の資金繰りにばかり目がいってしまいがちだが、厳しい未来もしっかりと見据えて、前を向いて歩いていかなければと強く感じた。

 人手不足対策については、労務委員会が外国人材の受け入れに力を入れて対応している。24年の初めには、観光庁主催のもとで宿泊4団体が共催となり、「外国人材雇用に向けた宿泊施設と人材事業者のマッチング会」を北海道と福岡で開催した。北海道会場には宿泊事業者25社、人材事業者25社、福岡会場には宿泊事業者39社、人材事業者24社に参加をいただくことができた。

 旧未来ビジョン委員会では、2月に東京ビッグサイトで開催された「国際ホテル・レストラン・ショー」で、「リョカンのミライを考える」というテーマのもとでセミナーを開催した。過剰な顧客満足の追求をやめ、施設ができること、できないことを明確にした上で、従業員の尊厳を守り、利用客にも理解してもらう必要があると訴えた。

 ――25年の宿泊業界について。

 大阪・関西万博が開催され、今よりも多くのインバウンドが日本にやって来ることは間違いない。考えただけでわくわくするが、見過ごせないのがオーバーツーリズムの問題。海外の方に人気の観光地ではさまざまなトラブルが起きている。こちらも旧未来ビジョン委員会のセミナーの中の提言にもあったが、それぞれの地域の歴史をもっと深く、正しく伝える必要があると感じている。

 私たち宿泊事業者は「訪れる全ての人に地域の素晴らしさを伝える」という責務を担っているのだと思う。

 ――協会が重点的に取り組むべき事項は。

 まず、能登半島地震の復旧・復興は忘れてはならない課題。豪雨災害も重なったことにより、地元では大変なご苦労を強いられている。引き続き政府など関係先には息の長い支援を訴えてまいりたい。

 「業界の地位の向上」の観点で、重きを置いて活動したいテーマとして、現在協会内で、キャンセル料徴収規定の在り方について検討をしている。8月に南海トラフ地震臨時情報が発表された際、多くのキャンセルが発生した。にぎやかなお盆シーズンを迎えるはずが、大変残念な結果となってしまった。本来であれば宿泊約款に記載の通りにキャンセル料を請求できるはずだが、実態としてはなかなか難しい状況にある。「交通機関が運休し、施設に到着できない状況のお客さまに対して請求することはできない」という施設がほとんど。コロナ禍でも私たち宿泊事業者はキャンセル料の課題に悩まされてきたが、未曽有の災害がいつ起きてもおかしくない状況の中で、その在り方をもう一度考え直すタイミングに入っているのではないか。

 また、インバウンドの増加に伴ってキャッシュレス決済の取扱比率も増え、私たちはカード決済などにかかる多くの手数料を支払っている。宿泊業界の手数料は、他業種と比べても高いと聞く。この要因について正しく理解し、協会として勉強していきたい。

 ――弊紙読者の旅館・ホテル経営者に一言。

 時代はめまぐるしく変わっていくが、旅館は「伝統」を求められる存在なのかもしれない。変えずに守っていくべきもの、思い切って変えていくべきものを見極め、新しい宿泊業界の未来を切り開いてまいりたい。

 私たちの大きな目的は地域の活性化。地域のお役に立つ産業でなければならない。異業種や外資が私たちの業種に参入しているが、私たちと同じ意識ならば大歓迎。私たちと一緒に持続可能な地域をつくっていきましょう。


日本旅館協会会長 桑野和泉氏

 
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