【2025年新春特別インタビュー】経済団体の観光立国戦略 日商 観光・インバウンド専門委員長 志岐隆史氏に聞く


日商 観光・インバウンド専門委員長 志岐隆史氏

 経済3団体の一つ、日本商工会議所は観光振興に力を入れている。観光の現状と2025年の展望について、日商の志岐隆史観光・インバウンド専門委員長(全日空商事顧問)に聞いた。 【聞き手・内井高弘】

地方の魅力向上による地方誘客を

 ――日商には専門委員会とは別に観光委員会がありますね。

 「日商では、中小企業の活力強化や地域経済の活性化を図る観点から委員会を設置し、政策討議や連携促進などを行っている。専門委員会ではテーマごとの重要課題に対応するため、各地商工会議所の会頭など地域のリーダーに参画いただき、議論を行っている」

 「観光・インバウンド専門委員会は宿泊・飲食・小売・交通・製造など、さまざまな業種のメンバー50人ほどで構成されている。おのおのが各商工会議所において地域経済の最前線でメインプレイヤーを務めている」

 「観光という仕事は奥深く、やればやるほど興味が湧いてくる。活動を通じて他の地域への理解も進んでいる」

 ――全国には515の商工会議所がありますが、観光専門の委員会を設けているのは。

 「名称は異なるが、観光関連の組織を設けているのは370カ所ほど。また、全ての商工会議所には観光連絡担当者がおり、商工会議所間の意思疎通が図られている。日商が横軸となり各地域を結び付け、観光振興を面で捉え、活性化を図るべく取り組んでいる」

 ――日商の主要な観光振興事業に「全国商工会議所観光振興大会」と「全国商工会議所きらり輝き観光振興大賞」がありますね。

 「『きらり輝き観光振興大賞』は、その名の通り、地域の特性を生かした輝かしい活動で、他の商工会議所の範となるような観光振興に取り組む商工会議所を顕彰する制度。2008年に創設し、今回で15回目。24年度は奈良商工会議所による『奈良SDGs学び旅』の取り組みが高く評価され、大賞を受賞した。このほか七つの商工会議所が各賞を受賞し、全国商工会議所観光振興大会において、表彰式と大賞のプレゼンが行われる」

 ――次の大会は。

 「25年の1月28~30日に長崎市で開催する。全国から1500人超の出席が見込まれており、一大イベントといえる。私は24年に開催した水戸大会に初めて参加したが、全国の観光担当者が一堂に会する、盛大な大会に大変感動した」

 ――千人規模ですから、会場確保など準備も大変でしょうね。

 「準備も長い期間かけて行われる。全国の商工会議所の立候補に基づき前々から開催地を決めており、開催地の商工会議所が中心となり準備を進めていただいている。今後、26年は北海道、27年は長野県松本市、28年は福井市で開催される」

 ――インバウンドについてはどう捉えていますか。

 「言葉の問題については、ソフトも充実し心配していない。先般、イタリアを訪問した際、私はイタリア語を話せないが、最近は翻訳アプリなどDXの進化により、日本語で話すとほぼ完璧に翻訳される。メニューなどもスマホをかざすことのみで日本語で表示される時代。訪日外国人が国内を旅行しても携帯端末さえあれば苦労しなくて済む。観光におけるDX推進により受け入れ側も同じく負担を軽減できるのではないか」

 ――新型コロナ禍でインバウンドは消滅しましたが、今は隔世の感があります。今後も増加が期待されることから、どう特定地域に訪日客が集中することなく地域に誘客するかが大事ですね。これは日本人旅行者についても言えると思います。

 「24年8月に斉藤鉄夫国土交通相(当時)に『新たな局面を迎えるわが国の観光に関する要望~地域を支える産業として観光が発展するために~』を手交した。その際、地域に人と投資を呼び込む地域ブランディングの促進を要望した」

 「地域ごとにさまざまな特色・持ち味があり、各地の商工会議所では歴史や文化、自然、食など地域資源を生かした地域ブランド形成に取り組んでいる。それらを強力に後押ししてほしい、と。外国人や日本人が地方に足を運ぶきっかけづくりがこれからさらに重要なポイントになる」

 「会員の中には宿泊事業者もいるが、コロナ禍で倒産や廃業を余儀なくされたところも多かった。宿は定期的な設備投資が必要だが、それができないなど、コロナ禍の3年の影響は非常に大きかった」

 ――知名度の高い観光地や大都市などはオーバーツーリズムが深刻化していますね。

 「地方にはさまざまな魅力的な場所がまだ多くあるが、認知度が低く、さらに露出していくことが必要。われわれ商工会議所はもちろん、自治体や他地域の関係者がもっと工夫、連携し、周遊ルートを発信していくなどの取り組みをしないと、この問題はなかなか解決しない」

 

万博を機に「周遊観光」を促進

 ――25年の話題といえばやはり4月開催の大阪・関西万博です。ここまで来たら成功してほしいですね。

 「期待は大きい。開幕し、参加した皆さまにSNSなどで楽しかった、面白かったという情報を拡散してもらえれば、おのずと来場者は増えるのではないかと思う」

 「万博を契機に周遊観光を促進させる必要があり、国交省への要望でも、各地で誘客に取り組む商工会議所への支援、交流人口拡大を図る『万博交流イニシアチブ』の促進などを求めている」

 ――日本人は海外旅行に行かなくなったという課題もあります。相互交流で観光は発展しますが、その意味では今は片肺飛行と言えるでしょう。

 「旅行はしばらく行かないといてもたってもいられない(笑い)。ある意味、人としての自然な行動とも言える。これから海外への旅行もだんだん増えてくると思う。コロナ禍を経て、日本人のメンタリティーや行動様式も変わってきている。観光に対する見方も変わりつつあり、日常の中に旅・観光が位置づけられ、万博もあり、いまは観光振興のチャンスと思っている。皆さまぜひ、この素晴らしい日本の再発見の旅に本年はお出かけいただければと思います」

日商 観光・インバウンド専門委員長 志岐隆史氏

 
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