【2025年新春特別インタビュー】経済団体の観光立国戦略 東商 トラベル&ツーリズム委員長 田川博己氏に聞く


東商 トラベル&ツーリズム委員長 田川博己氏

 経済3団体の一つ、日本商工会議所は観光振興に力を入れている。観光の現状と2025年の展望について、東京商工会議所の田川博己トラベル&ツーリズム委員長(JTB相談役)に聞いた。 【聞き手・内井高弘】

ツーリズム発展へ都や国に要望

 ――トラベル&ツーリズム委員会の構成メンバーは。

 「委員46人、幹事4人、オブザーバー1人の計51人。JR東日本副社長の伊勢勝巳さんと日本航空副会長の清水新一郎さんが共同委員長、新吉社長の富永新三郎さんが副委員長を務めている。東商の会員企業や支部会長、青年部、女性会、支部からの推薦者で構成されており、多種多様な方が集まる、割と珍しい委員会だと思う」

 「一番大きな事業は東京都や国への要望だ。2024年6月に小池百合子都知事に『ツーリズムの基幹産業化に向けた東京の産業振興に関する重点要望』、24年8月には斉藤鉄夫国土交通相(当時)に『ツーリズムの基幹産業化に向けたわが国の産業振興に関する重点要望』をそれぞれ提出した」

 「最重点はツーリズム産業の持続可能な発展に向けた受け入れ環境の整備だ。コロナ禍でツーリズム関連産業は大きな打撃を受け、多くの人材が流失した。需要は回復したものの、担い手が戻っておらず、人手不足状態にある。労働環境や待遇の改善と、若い世代への文化教育の拡充が求められる。併せて観光DXの推進等、省人化の取り組みも必要だ」

 「また、『国際文化都市東京』の実現、双方向交流拡大に向けた東京のさらなる国際競争力強化―などを求め、消費拡大に向けたナイトタイムエコノミーの活性化、大阪・関西万博を契機とした交流促進、MICE、富裕層誘客などを盛り込んでいる。昨年は能登半島で震災と豪雨が発生し大きな被害が出た。日本は自然災害が多く今後も発生するが、ツーリズムは被災地の復興には大きく貢献できる。そのため、ツーリズムを通じた被災地復興支援も要望した」

 ――ほかにはどんな事業を。

 「東京に住んでいるとはいっても、東京のことを知らない人は意外と多い。そのため、東京の魅力発信とシビックプライド(郷土愛)醸成に向け、デジタルブック『東京三昧カレンダー』を4半期に1回、春夏秋冬に合わせて定期発行している。東京23区で開催されるイベントや祭りをカレンダー形式で掲載している。23区に住んでいる人でもまだ行ったことがないイベントが数多くあるはずで、ぜひ足を運んでその魅力を体験してもらいたい。また、巻頭の特集ページでは23区の魅力的な銘品・逸品を紹介している。東京でこんなものが作られているのかという細かいところまで目を配り、製作している」

 「東京は江戸時代の約260年、明治からの約160年の連綿とした歴史がある。それが大きな魅力。伝える義務がわれわれにはある。ただ、最近では外国人の発信力もあなどれず、逆に教わるケースもある(笑い)。そういうものも参考にして、新しい東京の人流を作っていきたい」

 「また、ツーリズムに関する先進的な取り組みを行っている地域を視察し、知見を得ることで東京のツーリズム振興の参考としている。最近では『世界の持続可能な観光地』として評価された愛媛県大洲市を視察した」

 ――東商が観光振興に力を入れる理由は何でしょう。

 「ツーリズムは裾野が広い産業であり、その発展は多くの会員企業の発展にもつながる。東京においても国においても極めて重要な成長分野である」

 ――インバウンドが好調で、オーバーツーリズムも深刻化している。京都などではさまざまな手を打っていますが、なかなか効果が上がらない。

 「オーバーツーリズムを解消するにはルールを作り、そのルールを周知し、守ってもらう努力が必要だ。場所・時間・曜日などによって人を分散させる混雑緩和の取り組みを考えるべきだろう」

 

キーワードは「日本を売り込む」

 ――25年のビッグイベントといえば、4月から始まる大阪・関西万博だろう。観光業界はもちろん、経済団体にとってもインパクトは大きいのではないでしょうか。

 「個人的な話で恐縮だが、私は大学4年のころに大阪万博(1970年)を見た。大学では道路経済学が専門で、就職先も物流企業を考えていた。ところが、会場に足を運ぶとこれまで見たことがない多くの人がいる。人生感が変わったね。観光・旅行の持つ魅力というか、エネルギーの大きさを肌で感じ、そうした仕事にかかわりたいと思い、日本交通公社(現JTB)に入った」

 ――いまの若い人たちも見てほしいですね。

 「万博に対していろいろな意見があることは承知しているが、生成AI(人工知能)や空飛ぶ自動車など近未来の姿を見て、それがどういう社会を作っていくかを学ぶ意義は大きい。そうした経験をした若い子たちがツーリズム産業に就けば、大きく変化するかもしれない。ツーリズムのDX化が進むだろう」

 「東商としては、外国人が万博から足を延ばし、京都や奈良の歴史観に触れた後、東京に来てもらい、江戸・明治時代を経て近代化された姿をどうアピールするかが重要だ」

 ――万博に向けた今後の予定は。

 「5月には委員会として万博会場を視察し、大阪商工会議所のツーリズム振興委員会と懇談する予定だ。24年9月に開催されたツーリズムEXPOジャパンの東商ブースでは万博のパンフレットを配布して機運醸成を図った。関西商工会議所連合会が主催するデジタルスタンプラリー『関西周遊NFTスタンプラリー』もともに進めている」

 ――25年のキーワードを挙げるとすれば何でしょう。

 「観光立国というのは訪日のためのキャンペーンではない。ブランドとして認知させるべきであり、個人的には『日本を売り込む』ということが25年のキーワードだと思っている。東京2025世界陸上、園芸博など大きなイベントが控えており、日本を売り込むための道具だと考え、設計図を書いていってほしい。価値を生み出すための活動をし、収益につなげることがツーリズム本来の姿。交流だけではないということを強調したい」

東商 トラベル&ツーリズム委員長 田川博己氏

 
新聞ご購読のお申し込み

注目のコンテンツ

第38回「にっぽんの温泉100選」発表!(2024年12月16日号発表)

  • 1位草津、2位道後、3位下呂

2024年度「5つ星の宿」発表!(2024年12月16日号発表)

  • 最新の「人気温泉旅館ホテル250選」「5つ星の宿」「5つ星の宿プラチナ」は?

第38回にっぽんの温泉100選「投票理由別ランキング ベスト100」(2025年1月1日号発表)

  • 「雰囲気」「見所・レジャー&体験」「泉質」「郷土料理・ご当地グルメ」の各カテゴリ別ランキング・ベスト100を発表!

2024年度人気温泉旅館ホテル250選「投票理由別ランキング ベスト100」(2025年1月13日号発表)

  • 「料理」「接客」「温泉・浴場」「施設」「雰囲気」のベスト100軒