【2025新春 女将座談会】滝見屋×ひなの宿ちとせ×和泉屋×お宿花かんざし


変わる時代、変わらぬ思い 女将たちが語る宿の未来

 活気が戻ってきた観光業界。社会環境が変化する中、宿の伝統を守り続けながら新たな変革に立ち向かう女将たちがいる。今回は温泉地から4氏にお集まりいただき、人手不足の状況や理想の女将像などを伺った。(本社会議室で)

出席者

安部里美さん(山形県大平温泉・滝見屋)
柳 明美さん(新潟県松之山温泉・ひなの宿ちとせ)
金内智子さん(新潟県よもぎひら温泉・和泉屋)
二瓶明子さん(福島県岳温泉・お宿花かんざし)

司会=論説委員・内井高弘

 

――お宿の特徴、セールスポイントを教えてください。

安部 山形県の大平温泉から参りました。母なる川・最上川の源流に位置しまして、最後は15~20分ほどトレッキングをしてお越しいただくような、山深い場所にある秘境の一軒宿です。営業は4月下旬から11月上旬まで。約半年間という限られた営業の中ではありますが、おかげさまで117年目を迎えました。家業として営んできた宿で、私は4番目の末っ子娘です。

 客室は14室で、客室単価は1万8千円。内風呂と露天風呂はそれぞれ異なる源泉を引いておりまして、全て源泉掛け流しです。体に優しい温泉ですので、料理も地産地消を大切にした、優しいものを提供しています。地元のお母さんが中心となり、地元の保存食なども取り入れています。

 当館は電気や水道、電波も届かないような、ないない尽くしの宿ではありますが、「ない豊かさ」を楽しめるのが自慢です。今年はゴールデンウイークのオープン日に向けて準備を進めています。自然に寄り添いながらの運営ですので、吾妻山で同じような条件で営む秘湯の山宿と協力しながら取り組んでいます。

安部里美さん

 

 松之山温泉は、新潟県南部の山間にある温泉地で、9軒の宿を構えます。冬は3メートル以上の雪が積もる豪雪地帯です。当館は明治中頃の創業で、昭和20年代までは湯治場として営業していましたが、昭和30年ごろから現在の旅館の形態となりました。コロナが明けてからの3年間、補助金を活用しながらリニューアル工事を進めまして、1年目はチェックイン後や夕食後にご利用いただけるバーを温泉街に新設しました。2年目は客室の改装。2~3部屋を広い1部屋にして、露天風呂を設置して付加価値を高めた客室を新たに作り上げました。客室数は31室から27室に減りましたが、客室単価は1万8千円から7万円まで幅広い価格帯を設け、多様なニーズにお応えできるようになりました。

 工事3年目にあたる昨年は、露天風呂や食事処の改装を行いました。食事処は図書室へと生まれ変わり、本や漫画をそろえてお客さまが客室以外でもゆったりとくつろげる空間をご提案できるようになりました。

 宴会場は、個人向けのダイニングに改装しました。せっかく米どころ・新潟においでいただいておりますので、米のもみがらを燃料にしたぬか釜を設置し、羽釜で炊いたご飯を朝・夕食にお出ししています。また、松之山温泉特有の高温の温泉熱を利用して、地元産の豚肉を真空パックで調理した「湯治豚」を開発し、お客さまの目の前で切り分けてご提供しています。温泉地には豊かな水源があり、浄水場も近いので、お風呂上がりにはおいしい地元のお水をお召し上がりいただいております。

柳明美さん

 

金内 当館は新潟のど真ん中、長岡市にございます。当地も冬には3メートルの積雪があるような地域ですが、長岡市は人口25万人の都市で非常に除雪体制が整っておりまして、車が走行できないことはほとんどございません。

 長岡といえば、毎年8月に全国的にも有名な花火大会がございます。毎年規模や内容がバージョンアップしておりますが、花火だけではない、年間を通じて来訪いただけるような観光地を目指し、行政も少しずつ観光振興に力を入れてくださるようになりました。

 よもぎひら温泉は、旅館はわずか3軒のみ。2004年に発生した中越地震では、私どもの地域も大きな被害を受けました。残念ながら、能登半島地震の時のような、企業の再建に向けての国の補助や保証制度が全くなく、自力で再建を進めざるを得ない状況で本当に苦しく厳しい20年を乗り越えてきました。そのような矢先の新型コロナウイルス感染症の発生。コロナ禍は地震の時よりも厳しい日々でした。ありがたいことに、金融機関からの支援が早く決まったこともあり、また幸いにも社員は前向きで、退職者も出すことなく、何とか持ちこたえ、現在に至っているというところです。

 客室数は37室で、平均単価は2万3千円前後。新潟は首都圏からのアクセスが良好ですので、お客さまの5割は首都圏からお越しになられます。市内のお客さまによる昼間の宴会利用もございます。温泉は16~17度の低温の単純硫黄冷鉱泉で、つるつるすべすべとした肌ざわりが特徴です。料理は、料理長と約2年にわたって試行錯誤を重ね、現在はダイニングでお出しする料理と団体料理とで演出方法を変えてご提供しています。

金内智子さん

 

二瓶 当館は磐梯朝日国立公園内に位置する安達太良山のふもと、岳温泉で家業として営んでいる温泉宿です。岳温泉は1200年の歴史を持つといわれておりまして、標高約1700メートルの安達太良山の8合目が温泉の湧出地です。その湧出地より、自然の落差を利用して8キロかけて温泉を引湯し、日本一の引き湯の長さを誇ります。

 温泉は全国的にも珍しい酸性泉。ピリピリするくらい強い酸性ですが、8キロ引湯している間に適度に湯もみされ、各旅館の湯船に注がれる時には酸がまろやかになり、やわらかな湯あたりをお楽しみいただけます。

 岳温泉にはかつて15軒の旅館がありましたが、現在は9軒にまで減少しました。家業として営む宿はほとんど姿を消し、多くが外部資本による運営となっています。このような背景もあり、地域おこしについてはいまだ足並みがそろえられていないのが現状です。

 花かんざしは創業150年、8室のみの木造の小さな宿です。建物は階段のみで廊下も細く、お客さまにはご不便をおかけすることもありますが、その古さや不便さを「風情」として感じていただけるような演出を心掛けています。セールスポイントは肩肘張らずにお過ごしいただける静かな空間であること。40~60代のご夫婦でのご利用が多く、山の自然だけではなく、温泉街も楽しみたいという方にお越しいただいています。客室単価は5万円ほどです。

 岳温泉は約20万年前、安達太良山が噴火した際に火山灰が降り積もった場所に位置します。そのため、火山灰層を通過して磨かれた、とてもおいしい伏流水が湧き出ており、酒造りや農業も盛んに行われています。福島は広く、中通り、会津、浜通りの3エリアに分かれていますが、東日本大震災の時に避難生活を共にした経験からエリアをまたいでの交流が盛んです。そういった人とのつながりもあり、山の麓の宿でありながらも、海を有する浜通りから新鮮な魚介類を入荷できます。そのため、山の恵み、海の恵みの両方をお楽しみいただけます。

二瓶明子さん

 

――インバウンドのお客さんは来ていますか。

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