
天橋立ビューランド
京都府北部(海の京都)で“日本の源流”体験
高校、中学校の教育旅行先として欠かせないのが京都だ。世界遺産の寺社仏閣が集中し、日本の歴史や伝統文化を肌で感じることができる。しかし、近年はオーバーツーリズムの影響からか「ゆっくり見て回ることができない」という声が学校側から聞こえてくる。
京都府、および京都北部7市町(福知山市、舞鶴市、綾部市、宮津市、京丹後市、伊根町、与謝野町)でつくる一般社団法人京都府北部地域連携都市圏振興社(通称・海の京都DMO)は「理系・文系問わず教育素材が豊富で、教育旅行先として最適」とアピールする。広いエリアでじっくりと腰を据えた学習が可能だ。
海の京都エリアは古代国家「タニハの国」として日本創生の舞台となり、豊受大神の伝説や鬼伝説など多くの歴史的証が残る。天橋立や丹後ちりめん、福知山城、古墳など、各時代の文化が息づき、日本の源流を感じられる。舞鶴では舞鶴引揚記念館での平和学習もできる。
ここでは7地域の魅力を紹介する。なお、月刊「教育旅行」(2025年2月号)掲載の、竹内秀一・日本修学旅行協会理事長による視察レポート「京都市内から意外に近い『海の京都』での探究学習プログラム」をぜひ参照してほしい。
舞鶴地域
貴重な資料展示 世界記憶遺産も
舞鶴は、第2次世界大戦の終戦後、シベリアや旧満州など海外にいた日本軍人と民間人の帰国事業を実施した18港の中で、1950年以降、国内唯一の引揚港になった。その役割を終える昭和33年までに66万人の引揚者を温かく迎え入れた。「戦後復興のふるさと」といえる地だ。
港の近くにある舞鶴引揚記念館は、日本史の教科書でも多くは触れられていない引き揚げやシベリア抑留について学び、考えるための貴重な資料が収蔵・展示されている。
中学生や高校生からなる「学生語り部」による展示案内、交流プログラムはぜひ受けてほしい。
シベリアの地で使用したコートなどの防寒具をはじめ、引揚証明書などの文書類など全国から約1万6千点の貴重な資料の寄贈を受け、常設展示にて千点を超える展示を行っている。
2015年10月10日に収蔵資料のうち570点がユネスコ世界記憶遺産に登録された。
抑留体験室
天橋立地域
日本三景の一つ 保全活動に熱心
日本三景の一つで国の特別名勝である天橋立。全長約3.6キロ、幅約20メートル~170メートルで、大小合わせて約8千本の松が生い茂っている。
風光明媚な光景だが、見る場所によって眺めが変化するという。その一つが天橋立ビューランド。文珠山山上にあり、ここから「股のぞき」した時の眺めは、天橋立が天に舞うように見えることから「飛龍観」と呼ばれている。観覧車やサイクルカーなどがあり、子供から大人まで楽しめる。
天橋立ビューランド
天橋立は特別名勝に指定され2022年で70年が経過した。美しい景観を保つための取り組みも学んでほしい。
歴史や環境問題などSDGsを意識した探究学習プランが体験できるのも大きな特徴だ。座学や学芸員との天橋立ウオーク、「天橋立まもり隊」参加による落ち葉(松葉)拾いなどの環境保全活動の実践、意見交換会など貴重な体験ができる。
京丹後地域
海のごみ問題に 市、民間で解決
「海の京都」エリアの最北端に位置するのが京丹後市。ユネスコ世界ジオパークに認定された「山陰海岸ジオパーク」の海岸線は絶景で、丹後半島一周のドライブやサイクリングが人気だ。
市は「観光SDGs」を目指し、訪問者と地域が一緒になって海岸保全に取り組んでいる。例えば、「ワンハンドビーチクリーン」は海水浴場開設期間中、市内の海水浴場を訪れた人たちに片手で拾える程度の海岸漂着ごみを回収してもらう。
「はだしで遊べる海を未来につなぐ」活動をしている株式会社あしあと。ごみを廃棄物としてではなく、新たな価値に変える取り組みを行っており、ビーチクリーン体験やプラスチックアップサイクル体験を提供。
例えば、ビーチクリーン体験で採取したプラスチックの海ごみの一部を特別な器具を利用して加工を施し、奇麗なペンダントやアクセサリー等にアップサイクルできる体験が好評だ。
ビーチクリーンに熱心に取り組む
綾部・伊根・与謝野
綾部地域・農家民宿
海の京都エリア南部に位置し、山々に囲まれた中丹地域(綾部市、福知山市、舞鶴市)では、里山での「農家民宿」に注目が集まっている。
「豊かな自然や里山、田園風景の中で、農山漁村の素朴な暮らしが体験できる」と人気だ。
綾部市には京都府下でもっとも多い20軒を超える農家民宿がある。伝統的な日本家屋スタイルだが、宿泊客を迎え入れるため美しく改装されている宿も少なくない。
田植え、野菜収穫、まき割りなどに感動する生徒も多く、オーナーと別れるのがつらいと涙ぐむ生徒もいる。
伊根地域・浦島伝説
「昔々浦島は 助けた亀に連れられて 竜宮城に来てみれば 絵にもかけない美しさ」。文部省唱歌「浦島太郎」の一説は有名だ。
伊根町の本庄地区には浦島太郎伝説が伝わる「浦嶋神社」(または宇良神社ともいう)がある。平安時代初期の天長2(825)年創祀という歴史ある神社だ。日本書紀には同地の浦島伝承が記され、いまなおこの地に脈々と受け継がれている。
宮司が重要文化財の掛け軸を用いて説明してくれ、日本最古の浦島太郎伝説を知ることができる。
与謝野地域・ちりめん
丹後ちりめん―京都府丹後地方で緯糸に強撚糸を使用して織られ、丹後で精錬加工を経ることで生地表面に「シボ」と呼ばれる凹凸が生まれる、後染め織物の総称。
与謝野町の主要産業はちりめんであり、400軒ほどの機屋が稼働している。全国からシルク製品が集まる織物ミュージアム「丹後ちりめん歴史館」のように、手織体験を通して丹後ちりめんの歴史を肌で感じることができる施設もある。
与謝野町観光協会では、シルクで緯糸と強撚糸を織り合わせたオリジナルのちりめんコースターを作る体験が可能だ。