シンガポール(以下、「当地」と記載)は所得も高く、訪日リピーターも多い、東南アジア屈指の成熟市場であり、当地にて重点的にマーケティング活動を行う企業、地域はとても多く、私も声を大にしてその取り組みにお薦めの市場と言える。一方で、そのような市場であるために、企業・地域間競争も激しくなっており、また、旅慣れた消費者も多いため、プロモーションにおいて差別化が一層重要だ。以下、差別化のアプローチの一つとして、ブランド戦略をテーマに紹介したい。
日本国内であれば、大阪は、食い倒れの街、というイメージは強いであろう。当地では、北海道は、冬の大自然の良質なイメージがブランドとして確立しており、地方の地名としては、突出した認知度を持つ。また茨城は、当地ではひたち海浜公園の花畑から、日本では必ずしも強くない「花の街」のイメージがある。
これらイメージは、実際にはもっと多様なものがある中で、消費者の旅行先を選ぶ想起に貢献している。とりわけ、個人旅行が多くなる中で、インターネットの検索ワードで想起してもらえるかは重要で、ブランドイメージがあると、差別化してその地域を想起するきっかけとなる。当地にいると、日本におけるブランドイメージとは異なる地方、またはあまりイメージがない地域が多い。そのため、これからでも戦略的にブランドイメージを築いていくことも可能であり、その結果、他地域との想起率の逆転も起こりえよう。
なお、ブランドは必ずしも一つに特化することはない。例えば、シンガポール市場では食、タイ市場では花、といったように、その市場にあったブランドイメージを市場ごとに変えていくことも可能だ。また、同一市場で、複数のブランドを築いていくこともありえるだろう。ブランドイメージの選定には、当該市場で何が刺さりそうであるか、市場分析を行うことも大切だ。
とりわけシンガポール市場は、食品輸出としても有力な市場であり、飲食は人気の高い旅行コンテンツだ。特に当地では何でも入手可能である一方、すべてが輸入食材のため、本場の高質な素材・現地での新鮮な、といった経験は、旅行でないと体験できないことから、ブランドイメージ構築にも使える。当地に流通する人気の食材(肉や海鮮は人気、日本酒に関心を持つ人も多い)を持つのであれば、地域団体商標やGI(地理的表示)を活用し、地名と食のイメージの浸透を観光の文脈でも活用することも良策だろう。例えば、当地では宮崎牛が流通して目にすることも多く、旅行で、おいしい牛肉を味わえる場所、というプロモーションも良いだろう。
ついついあれもこれもとプロモーションをしたくなるところであるが、成熟市場では、まずは旅行先を想起させる消費者のつかみとして、ブランド戦略を立てていくことをお勧めしたい。
(観光経済新聞11月25日号掲載コラム)