価値訴求型モデルへの転換を
数年来、観光産業を取り巻く外部環境の変化は非常に大きく、そうした状況の中で事業を継続、成長させていくためには、私ども観光事業者はビジネスモデルとマインドセットを転換せざるを得ないと痛感しております。
外部環境変化のうち、顕著な事項の一つとしては、お客さまが旅行中のプライベート感を重視するようになったことがあります。コロナ禍を経験し、この傾向は一段と強まっております。加えて、世界的な物価高基調や深刻な人手不足を受け、観光業にまつわるコストは軒並み上昇しております。このことは、観光事業者にとって当然ながら逆風な面もありますが、一方で、適正な範囲であれば、お客さまに値上げを受け入れていただきやすくなっているようにも感じます。
このような情勢の中、観光事業者のビジネスモデルは、「価格」訴求型から「価値」訴求型への転換が求められているように思います。旅館業を例にとると、施設面では、客室面積の拡張や客室露天風呂の設置等による客室の高付加価値化やダイニングスペースの個室化などが挙げられます。サービス面では、近年導入施設が増えているオールインクルーシブスタイルが顕著な例かと思います。
当社においても、観光庁の補助金を活用し、運営7施設の高付加価値化改修を実施いたしました。期待していた顧客単価アップもさることながら、新規顧客層の開拓にも寄与しております。そうしたハード面の充実を支えるべく、一部の高単価施設ではオールインクルーシブスタイルを導入、また設立25周年キャンペーンの一環として、湯河原エリア施設における朝食時のいくら・しらす食べ放題を行うなどしております。このように、販売価格に見合う価値を提供し続けられるよう、「質」の向上に向けた取り組みを継続してまいります。湯河原温泉全体の観光振興戦略としても、いたずらに「数」を追うのではなく、お客さまの深い満足・癒やしをかなえるべく「質」を高め続けることによって、近隣の大観光地たる箱根、熱海との差別化を図ることが肝要と考えております。
コロナ禍もほぼ終息した本年、訪日外国人客数は既にコロナ前の水準並みにまで回復し、さらなる増加が見込まれます。訪日客の満足度を高め、再訪、発信を促すために、わが国の観光業は「世界水準」へと進化するよう求められているように思います。業界が一体として価値向上に努めることは、そうした目標の達成につながり、ひいては観光立国の実現に資するものと考えております。
フォレスト代表取締役/湯河原温泉観光協会会長 石田浩二氏