脅かされる平和産業
コロナ禍のさなか、2月24日ウクライナ戦争が起こった。連日、衝撃的なウクライナのニュースが流れたあとに、いまだコロナ陽性者が高止まり状態にあることが報じられている。この二つの重大事象で、大きく世界が変貌していく予感が増している。
3年目を迎えたコロナ禍の経済は特にサービス産業、とりわけ人流系の三つの産業「宿泊/観光・飲食・エンターテイメント」が悪化している。これに加えて戦争により、さらなるエネルギー価格の高騰、食品、建築資材なども上昇局面にある。デフレを脱したのちも、物価が上がる見込みのなかった中で、社会状況が激変している。
経営者生活の中で、ここまで先が読めないことはなく、未来は混迷化しているように見える。
長いコロナ禍の中でwith Corona、after Coronaを考えながら、徐々に先行きの手を打てるような状況に達していた。ウイルスの進化でオミクロン株に至り、感染力は増しても重症化率が減少、欧米中心に世界の対応もずいぶんと変わり、観光も徐々に復活してきた。わが国のコロナ施策もようやく変わろうとしているところだ。
そのときを待っていたように戦争が始まった。コロナ禍が消し飛んだような凄惨な戦争動画が映し出される。90年代、冷戦時代が終わって以降の国際秩序が、一挙に破壊されそうな不安を覚える。同時にロシアへの経済制裁や、ロシアとウクライナの世界を支える重要な原材料の供給が滞るなど、世界経済の成長に大きな重荷を負わせる結果となっている。
戦争は政治の失敗そのものだ。世界の経済交流が拡大すれば、相互依存が強化され戦争を回避できるといわれたのも絵空事だった。
観光は「安心・安全」を前提として成立しており、「平和」が基盤になり成長できる産業である。21世紀に入り、世界の交流人口が急増したのも、平和と経済成長による所得の向上が背景にあった。
世界の交流人口がコロナ以前に戻るのは、最も遅い予測でも2025年であった。そのV字回復を予測しながら、生産性やDXや労働環境の視点などから、コロナ後の世界の変化を捉えて、私たちは変わろうとしていた。しかし、現在、さらに大きな国際的秩序の変化や、それに伴う経済変動も予測に入れておかねばならない。
コロナ禍では、宿泊産業の赤字比率はどの産業よりも高い水準にある。日本への世界的観光需要は根強くV字回復も夢ではない。が、次のステージまでいくつかのシナリオを用意しておく必要に迫られている。
鶴田浩一郎氏