お客さまに「リアルな」感動を
こんなにも脆いのか…。東京オリンピック・パラリンピックの開催を控え、訪日観光客4千万人の到達は確実と思われた2020年、平和産業である観光業は、たった一つの感染症ウイルスが世界規模で感染拡大したことにより、これほどまでに長期にわたり大きく傷つくことになるとは想像しなかった。
旅行需要は、大きな波となって必ず戻ってくる。われわれ観光業界は、来るべきその時のために、お客さまを迎え入れていただく宿泊・食事・観光施設や運輸機関といったビジネスパートナーの皆さまを守らなければならない。コロナ禍で受けたゼロ金利融資の元本返済が始まる企業もある中で、いよいよ4月末からハワイツアーが再開され、連休のJRの指定席予約も昨年の約1・8倍になるなど、ようやく観光業界にも光が見え始めた。
お客さまも旅を待ち望んでいることは確かで、とにかく旅行に行きたくてたまらないお客さま、ようやく帰省できるお客さまや、ずっと我慢していた新婚旅行、延期となっていた修学旅行など、業界も活気づく準備は整っている。県民割から地域ブロック割へと順次拡大している中、あとはGo Toトラベルキャンペーン等が全国的に再開されるのを待つのみである。
ただでさえ苦しい時に、世界の一部では戦乱が起こっている。今、隣国同士が争っている時ではないだろうと私は強く思うが、平和であることはわれわれ観光業にとって最低限かつ最も大切な必要条件であり、一刻も早い戦乱の終結を心から願う。
コロナウイルスも頻繁に変異を繰り返し、ワクチン開発との生存競争の様相だ。しかし、ワクチンを3回接種しても感染するリスクがあるなど、思うような道筋を示せない中で、われわれはリアル開催・リアル会議・リアル旅行をとことん模索し、お客さまが待ち望んで止まないリアル体験・リアル食事を心置きなく行い、現地のおいしいものを食べ、旅行先の空気や水をおいしいと感じ、景色や花や雪を見て感動できる…そんな当たり前にできていた旅の醍醐味(だいごみ)や、旅のもたらす効能を、われわれリアルの旅行会社がお客さまに丁寧にお届けしていきたい。同時に、旅行業のプロとして、地域の磨き上げや、デジタル化による一層便利な交通サービスを提供(MaaS)することで、より多くのお客さまが旅に行く、人とふれあう動機付けや目的にしたいと考える。
今年こそ全ての観光産業にとって実りある1年になるよう、祈るだけではなく、サステイナブルにソリューションの提供をしていきたい。
村見拓一氏