人を動かすことが住民の環境を整える
私が代表理事を務める日本スポーツツーリズム推進機構(JSTA)は、2012年に観光庁の旗振りによって誕生した一般社団法人である。それ以後10数年にわたり、日本のスポーツツーリズムを推進するために、さまざまな事業を戦略的に構築してきた。その間、スポーツツーリズムの知名度も徐々に上がり、最近では、アウトドアスポーツツーリズムや武道ツーリズム、そしてアーバンスポーツツーリズムといった新しい観光コンテンツの開発が進んでいる。
日本の地域は、ほぼ例外なく高齢化と人口減に悩んでいる。筆者もスポーツによる地域活性化に関する講演依頼をよく受けるが、具体的方策の一つとして、「地域スポーツコミッション」の設立を勧めている。この組織は、スポーツ合宿やスポーツイベントを誘致・開催することで、域外からスポーツツーリストを受け入れ、経済効果を生むことを目的としている。
今後、高齢化と少子化による人口減少は、税収の減少を招き、行政サービスの劣化といった負のスパイラルが進展するが、これを阻止するために、域外から収入を獲得する<アウター>(域外交流振興型)の政策が重要性を増す。これによって、「住民のスポーツ参加率の向上」や「スポーツ施設の管理運営」、そして「スポーツ大会の開催」といった<インナー>(地域資産形成型)の政策を補完することが可能となる。そしてその先に、インナー政策とアウター政策の同時展開による「スポーツまちづくり」という新しい局面が見えてくる。
このような動きは、国の政策とも一致しており、スポーツ庁が策定した「第3期スポーツ基本計画」(2022~2026)の中でも重要項目に位置付けられている。これは「スポーツ健康まちづくり」に取り組む地方公共団体を、2021年度の15.6%から2026年度末に40%にするというもので、具体的な数値目標を掲げるなど、本気度の高さがうかがえる。それに付随して、スポーツ庁は、地域スポーツコミッションを設置するための補助事業も行っており、本年度はJSTAがその事務局機能を請け負っている。
スポーツツーリズムは、「スポーツで人を動かす仕組みづくり」を意味するが、時代の流れはその先に向けて動いている。人を動かすことは、地域と経済を活性化する。その果実を活用することで、住民がアクティブで健康的な生活が送れる生活環境を整備することが、今後の幸福な社会づくりに向けた重要な課題である。
一般社団法人日本スポーツツーリズム推進機構会長 大阪体育大学学長 原田宗彦氏