理解からアクションを
私は昨年7月まで旅行会社で30年間勤務し、そのうち約20年はユニバーサルツーリズム(UT)に携わってきました。一つ、特に記憶に残るツアーを紹介します。15年前、視覚障がい者の方々と一緒に巡っていた八十八ヶ所四国お遍路の旅で、参加者の一言「渕山さん、一生に一度でいいから車を運転してみたいんだけど」から生まれた「世界初!視覚障がい者夢の自動車運転ツアー」です。実現してからは、毎回受け付け開始と同時に満席になる人気ツアーとなり、絶対にできないと思っていた「夢」の実現をお手伝いできたことは、UTに携わってきてよかったと思いました。今もUTを行う使命を感じながら日々事業に取り組んでおります。現在は、自治体、観光業を問わずUTアドバイザーとして、研修やセミナー、UT推進の事業提案などをお手伝いしています。
2013年、オリンピック・パラリンピックが東京に決まった以降、高齢や障がいのある観光客も楽しめるUTへの取り組みが加速した印象があります。本来であれば、車いす使用者だけでも7.5万人(会場の延べ車いす席数)以上が訪れ、観戦以外に日本各地を観光で訪れたはずです。準備などで培った経験は、2025年の大阪・関西万博に向けてのレガシーとして引き継ぎ、さらに進化させる必要があります。
大阪・関西万博は、開催期間が185日、来場者数を約2800万人想定しています。当然、多くの高齢者、障がい者が含まれます。2025年には高齢者数が3677万人と国民の30%を超え、20年前の愛知万博時と比べても10ポイント、1千万人以上も増えます。高齢化率世界一の超高齢社会型万博となります。コロナ禍で大打撃を受けた全国の自治体、観光地、観光業が次の観光特需のターゲットを2025年に置き、大阪経由の観光客誘致を考えるのであれば、高齢者も障がい者も誰もが楽しめる観光地を今からでも目指すべきです。
過日には、兵庫県が日本で初めてUT推進の条例化に動き出すという記事を目にしました。初の会合で斎藤知事が「兵庫を日本一、世界一旅行しやすい観光県作りを進めたい」と話されました。また、群馬県の伊香保温泉からはバリアフリー化に取り組む宿泊施設が増え「緊急事態宣言下でもバリアフリールームは予約がひっきりなしだった」、Airbnb(民泊)からは「UTで重要なアクセシビリティ情報を充実し改善を進める」という声も聞こえています。
UTを新たな顧客に目を向けてもらう武器と捉える地域は増えています。何から始めたら良いか分からない自治体には、研修やセミナーでUTの理解から入ることを勧めています。皆さまの地域でも理解からアクションを。