地域の本当の魅力 観光事業で伝える
令和6年7月27日、新潟県の佐渡島は悲願のユネスコ世界文化遺産「佐渡の金山」に登録された。その価値が世界に認められたことは、私たち島民にとって大変誇らしいことであり、この決定に至るまで関係者の皆さまのご尽力と道のりは計り知れない。今後はその歴史と文化を守り、次世代に伝えていくことが私たちの使命であり、今回の世界遺産登録はその重要な一歩となる。
さて、それから2カ月たったが、その後の佐渡はどうだろうか。登録が決まった7月から9月はちょうど行楽シーズン。例年多くの観光客、帰省客でにぎわいを見せている時期だ。メディアはそろって「さっそく世界遺産効果?」「外国人は増えた?」「オーバーツーリズムは?」と報道したがった。だが実際はそうでもない。もちろん金山効果で関連した観光施設の入り込みは前年より上がってはいるものの、佐渡金山というアイコンがフォーカスされ過ぎて、地域の本来の魅力や歴史、文化、そしてこの島に住む人たちの暮らしや知恵など、もっと知ってほしいものがひもづいたかたちで報道されない。登録後、住む人たちの暮らしが変わったかと聞かれれば、普段と何も変わらず、むしろその勢いすらかき消すほどの穏やかな島時間がいつも通りに流れている。今まで地域DMOとして行政をはじめさまざまな観光関係者や民間事業者と共に事業を行ってきたが、きちんと地域に裨益(ひえき)しているのか?事業を行うためが目的で、関係者だけで終わってないか?
昨年より私が事務局長に就任してから、「地域DMO」として改めて、観光事業者はもちろん、他業種や地域とのコミュニケーションの場を定期的に設け、住民の観光への考え、悩み、観光事業がきちんと認知されているか、改めて対話を通し知ることを大切にした。弊社は着地型旅行商品を自社OTAでも販売しているが、有難いことに地域から、「こんな体験を提供したい!」「佐渡のこんな魅力をもっと知ってほしい」など意欲的な声を頂く。それをわれわれが丁寧に地域と意見を重ね、造成、販売し、地域への対価はもちろん、「また来るね!」「今度は友人、家族も連れてきます!」など、そこからお互いの関係が生まれ、地域の方がやりがいや生きがいを感じる。そんなことに関われることこそが観光の仕事の醍醐味(だいごみ)である。
事業はあくまでも目的ではなく手段。地域の資源を消費することではなく、その根本にある住む人の誇りをリスペクトし、先人が築いてきた歴史、文化、自然をどのように守り続け、観光が寄与できるか。われわれはそんな地域の人が笑顔になれるような光を当てる照明屋でいたい。