観光DXと自立型地域によるイノベーション
インバウンド市場が急成長する一方で地方観光の弱点が明らかになった。ボトルネックは、認知度の低さ、交通アクセスの悪さ、旅行者を喜ばせるコンテンツの不足だろう。日本人相手であれば国内の旅行会社と組むことでこれらの問題は解決する。有名観光地でなくても「デスティネーション」として選ばれれば、旅行商品(ツアー)を通じて送客の対象になりえる。だが、世界的には旅行の形態はFIT(=気儘(きまま)な個人旅行)が中心だ。「いまだ十分に知られていない、交通の便が悪い地域」が直接インバウンド市場にアプローチするのはなかなか厳しい。それに対して、インバウンドが目に見えて増えていくゴールデンルート上の場所には民間が積極的にビジネス参入するため、肝心の観光消費額も自然に上がっていく。現状のままでは地方とゴールデンルートの「観光格差」は大きくなっていくばかりだ。
当機構は独自に課題解決の取り組みを始めている。「ディスカバーアナザージャパンパス」はFIT用の観光アプリだ。広島平和記念公園、伏見稲荷大社などの人気観光スポットを目指してやってくる外国人観光客が山陰を含む中国エリア全域をもっと気儘に旅してほしいとの願いで開発してきた。このパスを活用して、地元の小規模な事業者にインバウンドビジネスにチャレンジしてもらう狙いもある。「観光商品開発マニュアル」は地域が主体となって取り組む観光商品の重要性と可能性についてまとめたオリジナルの冊子だ。旅行会社任せ、メディア頼みではなく、地域全体で商品開発に向き合ってこそチャンスが生まれる。観光人材の育成は人口流出が続く地方にとって最重要課題だ。このたび、地元大学と組んで「ツーリズム人材育成塾」をスタートした。地域の強いリーダーが生まれてくる予感がしている。
地方観光の強化にはゲートウェイを意識した超広域の誘客戦略も重要だと思う。これまでの人気の観光スポット頼みのプロモーションではオーバーツーリズムの再現になりかねない。インバウンド市場が再開して、地方自治体や各地のDMOが競ってPR、プロモーション活動を始める前に、FITが自然と旅(移動)するようなルートづくりが必要だ。国全体のゲートウェイと複数の観光地を俯瞰して、「周遊」↓「滞在」↓「消費」のスムーズなフロー(流れ)を作っていくべきだろう。
アフターコロナで観光は変わる。インバウンドを地方の活性化に生かせるかは関係者全員の創意工夫にかかっている。
福井氏