【VOICE】宿泊事業者が今、取り組むべきこと 京都バリアフリーツアーセンター 代表理事 中村敦美氏


京都バリアフリーツアーセンター 代表理事 中村敦美氏

「心のBF」高めよう

 アフターコロナの時代において、ユニバーサルツーリズム(UT)やバリアフリー(BF)の視点は、宿泊事業者が取り組むべき大切な要素の一つです。それは一部の人々を対象とする特別なサービスではなく、社会全体のニーズに対応した持続可能なビジネスの基盤を築くものです。

 UTとは、障がいの有無、年齢、身体的な関係に関係なく、誰もが旅行を楽しむことができることを目指す考え方です。このニーズに対応するためには、まず、ハード面のBF化を推進することが重要です。具体的には、エントランスなどの無段差化や、音声や視覚に頼らないサインシステムの導入、エレベーターや自動ドアの設置などです。これらの設備は、障害を持つ人だけでなく、高齢者や小さな子供を連れた家族旅行にも喜ばれるものです。

 その上で私どもは、BF化で最も重要なのはソフト面の整備であると考えています。それらを「心のBF」と呼び、観光庁も「心のBF認定制度」として推進しています。心のBFを進める方法として宿泊事業者には、スタッフの意識と対応力を向上させるための教育プログラムの実施をお勧めします。研修によりスタッフが、車いすを利用するお客さまの移動サポートや視覚障害者に対する説明方法など、個別のニーズに応じた柔軟な対応ができるようになることが重要です。

 コロナ禍でデジタル化の流れも進みました。宿泊施設のBF対応情報をデジタルで分かりやすく提供することも重要です。公式ホームページに、車いす対応の客室やBF設備の詳細を明記することは、宿泊先選びの重要な要素となります。BF対応施設の写真や動画を掲載することで、利用者に安心感を与えることもできます。また、BF化されていない設備に関する情報も合わせて正しく発信することは、現地での対応方法の判断材料となり、利用者の安心感につながります。

 宿泊事業者がUTやBF化に取り組むことは、全ての人が平等に楽しめる旅行環境を実現するための重要な一歩です。ユニバーサルな意識を高めるだけでなく、社会全体の包括性を向上させるものでもあります。そしてそれは新たな顧客層の開拓、ひいてはさらなる観光業の発展につながることは間違いありません。

 コロナ禍中、客室稼働率が全国平均34%だった時に、BF化に本気で取り組んだ宿泊事業者では80%超えだったという驚異的な実例もあります。全ての宿泊事業者がUTに取り組み、誰もが安心して旅行を楽しめる環境になることを切に願います。

 
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