【VOICE】持続可能な観光地域づくりに有効なエコツーリズム 日本エコツーリズム協会 事務局次長 水谷初子 氏


水谷氏

宿泊事業者に期待したい役割

 6年ぶりの改訂となる「観光立国推進基本計画」では、「持続可能な観光」「消費額拡大」「地方誘客促進」が三つのキーワードとされ、持続可能な観光地域づくり、オーバーツーリズムからの脱却や地方誘客促進、高付加価値旅行による消費額拡大がポイントとされている。「持続可能な観光地域づくり」の具体的な手法として、宿泊事業者が地域と一体となって推進する形の「エコツーリズム」が有効だ。

 「観光立国推進基本法」に続いて施行された「エコツーリズム推進法」(平成19年法律第105号)では、「自然環境の保全」「観光振興」「地域振興」「環境教育の場としての活用」を基本理念としている。

 私事で申し訳ないが、先日3年ぶりの家族旅行にでかけた。時間も限られていたため、16時間の滞在のほとんどを旅行先である雪国の温泉宿で過ごした。夕食時、仲居さんに渡された一葉のしおり。そこには、その地域ならではの食文化を守り伝えたいとの思いから、古くから伝わる「ならでは」をひもといた地元グループと連携して開発した品々であることが紹介されていた。

 例えば、添加物を一切加えない伝統保存食、化石エネルギーを使用しない高温の源泉配湯温度を生かした低温調理法によるハムなど。地域の皆さんの思いと商品化までのご苦労を勝手に想像しながら、おいしくいただくとともに、自然との共生の意味、毎日を丁寧に生きることまでも考えた(「環境教育の場」となった)。

 また、宿泊部屋には、宿スタッフによる観光スポットや前日でも予約可能なアクティビティ紹介があり、事前に情報収集せず訪問した筆者も親しみを覚えた。夕食後のラウンジでは、ハム作りの裏話や短時間での宿周辺の楽しみ方を話してくれた。

 今回の旅の目的は温泉であったが、居心地の良さに、短い滞在を悔い、もっとこの地域のことを知りたい、新緑の季節に再訪したいとの気持ちになり、お土産に伝統保存食を購入した。

 旅行者とより長く接点をもつ宿泊事業者が、地域の豊かな自然環境や文化生活を守り活かしていくという意志をもち、地域と一体となって魅力あるコンテンツを生み出し、地域の特徴を宿をあげて発信していく。そして、来訪者の囲い込み(ファン化)や地域の活性化につなげる。「エコツーリズム」を活用した持続可能な観光地域づくりにおける、期待したい役割だ。

 アフターコロナを迎え、発地主導から着地主導型へ、周遊型から滞在型へと進む中、宿泊事業者がますます重要な存在になっている。

 

水谷氏

 
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