多様な履修生が観光学ぶ
東京大学公共政策大学院で、観光の講義を昨年度から担当している。「東京大学で観光の修士号が取れるのか?」と思われるかもしれないが、京都大学経営管理大学院や一橋大学大学院のように観光関係の修士号プログラムやコースがあるものではなく、本学の大学院生向けに夏学期と冬学期に一コマ授業を提供しているものだ。授業名はそれぞれ「観光政策概論」と「観光地域政策」。観光庁や京都市役所、復興庁で観光行政経験がある当方が担当教員となり、さまざまなゲストスピーカーにお越しいただき講義で学んでもらう。今回はこの東京大学公共政策大学院での授業についてご紹介したい。
まず、多様なバックグラウンドの学生が履修している点が特徴だ。東京大学の中には、学科横断で履修可能な授業も多く設置されており、この授業もその一つになっている。このため、公共政策大学院の授業であるものの、公共政策大学院以外の学科の履修生も多い。今期は、交通、景観、建築、まちづくり、都市防災、海岸、地域計画、西洋史、文化人類学、政治学、薬学、農学などの多様な専門の大学院生が公共政策大学院生とともに履修している。観光は多様な分野から成り立っているため、多様な分野の学生が観光の授業を履修することは望ましいことだと考える。
2点目は、本学は観光を「ビジネス」ではなく、「政策」に軸足を置いている点が特徴だ。履修生全員が公務員になるわけではないが、たとえ民間事業者の立場で観光に携わるとしても、”観光政策”が目指しているものや行政側の考え方を理解できる民間プレイヤーが増えることは、非常に有益なことだと考えている。さらに、コンサルや運輸業界にとどまらず、この授業を通じて観光関係業界への就職を検討する学生も出てきており、うれしいことの一つだ。
3点目に、社会人学生も履修している点だ。公共政策大学院には社会人受験制度があるため、この授業も県職員、航空会社社員、新聞記者の学生が履修した実績がある。現場経験のある社会人学生が、改めて観光を学び直し、視野を広げる機会の提供にもつながっている。
最後に、東京大学には私の担当授業以外に観光の講義はない。東京大学というアカデミズムと実学のバランスが求められる教育機関での観光の講義の提供は難しい面もあるが、それでも、わが国の最高学府を卒業し社会で活躍する人たちの中に、観光を正しくかつ適切に理解できる人が増えることは、観光立国の実現に寄与できることと信じて、日々学生と接している。
三重野真代氏