「レスポンシブル・ツーリズム」で住民も安心の観光客受け入れを
多くの観光客を魅了する世界遺産白川郷合掌造り集落。今も500人余りの村民が生活する。観光地が生活の場でもあるからこそ、生活と観光の両立を図るべく生活と観光の時間が明確に分けられている。宿泊は別として夜の観光を受け入れていない。
どのように時間を分けているかというと、外部からのアクセスが車に限られる地理的条件を生かしている。駐車は村営駐車場のみで、営業時間を午前8時から午後5時までにしている。さらに路線バスの最終便(白川村発)をおおむね午後6時までに設定している。従って、夜間の観光は事実上できない。この何気ない取り組みは、現在の観光地域づくりの常識を覆すような新たなパラダイムを提示しているのかもしれない。
また、村の観光地づくりの原点は、1971年に制定された住民憲章と言える。住民憲章には、地域内資源を「売らない・貸さない・こわさない」という保存の三原則が明示されており、半世紀たった今でも守られている。住民が自らルールを課し、地域内資源を「変わることなく」次の世代に引き継ごうとしている。この先見性により、1995年にユネスコの世界文化遺産に登録。来年で登録30周年という節目を迎える。
このような堅実な取り組みがあるとはいえ、村の観光地域づくりは新たな局面を迎えている。観光客の構成が大きく変わってきたのだ。白川村を訪れるインバウンド観光客が右肩上がりで増加し、2019年に102万人を記録。同年の村の観光入込総数215万人の47%にあたる。これまで観光客のモラルに任せてきたが、多様な価値観を持つインバウンド観光客が増えたため、マナーをめぐる摩擦が顕著となり具体的な行動を示す必要が出てきた。
そこで注目したのが、ハワイで進めている「レスポンシブル・ツーリズム(責任ある観光)」の啓発である。白川村のホームページに「白川郷レスポンシブル・ツーリズム」の特設ページを設け、観光地を守るための五つの具体的な行動とその理由や大切さ、さらに地域がどのような取り組みをしているのかを示すことにした。即効性のある対策ではないが、世界遺産白川郷の観光スタンダードとして定着すれば、受け入れ側のモチベーションを下げることなく観光客を受け入れることができる。
観光行政の最前線にいる者として、観光する側と受け入れる側の双方にとって満足度の高い観光地づくりが、持続可能な観光地づくりにおける重要な要素であると感じている。