【VOICE】観光の担い手不足に危機感 城西国際大学観光学部教授 多田充氏


城西国際大学観光学部教授 多田充氏

子供への観光体験・普及活動通じて観光人材を掘り起こせ

 空前の人手不足を背景に、今春も観光系教育機関卒業生の就職状況は好調だ。大学としては大変ありがたい状況だが、その裏で観光系学部への進学を希望する高校生が増えていないことは懸念材料である。

 背景にあるのは少子化だ。18歳人口は2024年に109万人だったが、来年は1・2万人減少する。しかも今後、減少は加速してゆく。観光系学部の定員は減ってはいないが、他学部との学生争奪は激しい。学部シェアが変わらなければ、観光系学部の人材供給力は長期的に年2~5%ずつ、低下してゆく可能性がある。観光業には他学部からも就職するが、専門を系統的に学んだ学生の減少はダメージになる。

 観光が日本における重要な経済成長分野であることは社会的共通認識だが、オープンキャンパスや高校訪問で聞く限り、高校生の間ではそこまで魅力的とは認識されていない。

 今の高校生たちは小~中学生時代にはコロナ禍で、その後は物価高による家計圧迫によって、観光や旅行体験の機会を奪われてきた。それゆえに進路選択にあたっても、そもそも経験のない観光分野は候補にあがってこないのである。

 また、保護者や進路指導の先生方の脳裏には、コロナショック時の業績悪化や離職イメージが残っている。不安定さを感じる観光を、進路として子供に勧める雰囲気になっていない。

 さらには観光学部に進学しても、他業種に就職する学生も多い。本学部では3分の1から4分の1が観光系以外に就職する。その理由には他業種の好待遇もあるが、観光学部に入学したものの自分の予想とは違っていた、というようなミスマッチも少なくない。

 これらの課題を解決するためには、若い世代に観光に興味を持ち、業界に対する関心を深めてもらわなければならない。そのためには幼少期からの働きかけが重要だ。

 観光庁でも小~高校生を対象にした観光教育を推進している。そこで取り組まれる観光を通じた地域しらべや魅力発信も大切ではあるが、その前に観光は楽しく好ましいものだという気持ちを持ってもらう必要がある。観光教育の取り組みは、まずは日常生活圏から飛び出して新しい世界にふれ、感動するという体験から始められるべきだろう。

 そしてこのような観光に関する教育、体験の推進は教育機関だけではなく、業界や家庭と連携しなければ広がらない。関係者が協力してより多くの子供たちに観光体験と感動を届ける波を起こさなければ、観光業の担い手不足はさらに深刻化する。結果として、観光がけん引する日本の成長も絵に描いた餅になりかねない。

 
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