「三つの課題」に準備、対応を
私たちの活動する飛騨高山には「夕食難民」という言葉がある。急激に回復したインバウンドのお客さまに対して夕食を提供できるお店が少なく、供給不足状態が常態化してしまっていることを指す。飲食店の数が不足しているのではない。対応力が不足しているのである。観光地は遊ぶ・食べる・泊まるがそろうことで価値を構成しているものと定義すれば、食べることの欠落はいただけない状況であることは明らかで、当地の観光リーダーはコロナ前からこれを予測し早々と難民化を防ぐように問題提起を続けてきた。しかし毎夜のように駅前のコンビニエンスストアや大手FFチェーンにはインバウンドのごった返している不思議な景色がある。
この3年間が飲食事業者にとっても、たいへんな時期であったことは理解できるが準備期間としては十分すぎる時間が与えられたはずだ。準備し続けた地元飲食店には多くのインバウンドが流れ、そうではないお店は苦戦を強いられている。なぜ準備しなかったのか。どんな準備が必要なのかについてまとめたい。ここでは事業者自身のやる気などの精神論は抜きで進めたい。
大きく「言葉の壁」「食の多様性の壁」「客単価の壁」の三つの課題がある。
言葉の壁はIT化の恩恵がありスマートフォンの翻訳機能を活用すれば、誰とでも一定の会話が成立する時代になっている。ひと手間余分なのかもしれないが、より効果的な使い方の学習をすることで事前に準備ができ、対応力アップが実現可能だ。活用しながらよく使う会話をマニュアル化するだけでも良いだろう。
食の多様性への対応については、飲食事業者側が再度学習し直すことをお勧めする。十数年前にヴィーガンやムスリムという言葉と要求が入国した時期と比べ、外部環境が大きく変化している。インバウンド側からの要求は柔軟さが備わり、食品メーカーには対応できる食材がそろうようになった。要求に対して厨房でひと手間足すだけで、彼らを満たすことができ得る時代になっているのである。
インバウンド客が入ると客単価が下がる、とよく耳にするが、正解は”対策次第で下がらない”だ。価値の伴わぬ値上げは禁じ手だが、彼らを理解し、喜ばすための値上げは受け入れられる余地がある。酒類を飲まずとも飲み物は飲む。どのように提案するか、工夫ひとつで変わる。
「夕食難民」は今後全国でも起こり得る。事前に対応力を上げることができるため、いつ人気観光地化しても平気だと、準備をお勧めしたい。
Tri-Win代表取締役社長 伊藤通康氏