いま求められる観光業界の企業横断的なネットワーク
宿泊施設のサステナビリティ認証取得支援をしている。
観光業界のサステナビリティ基準を制定するGSTCの宿泊施設向けの基準である「GSTC―I」では、主要4部門からなる42基準167指標が設けられており、事業者が到達を目指すべき最低限の基準とされている。主要4部門は、(1)効果的で持続可能な経営管理の明示(2)地域コミュニティの社会的・経済的な利益の最大化、悪影響の最小化(3)文化遺産の魅力の最大化、悪影響の最小化(4)環境メリットの最大化、環境負荷の最小化―で構成されている。
基本的には167指標すべてをクリア(準拠)する必要があるため、事業者としては果たして認証が取得できるものかと不安に思うのは当然であるが、一つ一つの指標を正しく解釈することさえできれば、既に取り組んでいる指標も意外と少なくないことが分かる。
認証機関いわく、特に日本企業は指標で求められていないことまで網羅しないといけないと推測し、難しく考える傾向にあるという。認証取得を目指す事業者は、ぜひシンプルな解釈で挑戦してみてほしい。
さて、サステナビリティの基準の一つに「機会均等」があり、そこでは女性についての言及がある。昨年より秋田県の観光業の女性スタッフに向けて、活躍推進やスキルアップをテーマにした講義とワークショップを受け持っている。前回は「女性がいきいき働く職場づくり」について考え、課題となる原因や解決策について活発なディスカッションが行われた。そのときの参考資料に、フランス発のホテルチェーンAccor社の取り組みを挙げた。RiiSEという女性がプライベートや仕事について気軽に議論し、アイデアを共有する部門横断的・国際的なネットワークを立ち上げた結果、当初13%であった女性の比率が40%を超えたというものである。女性の職場改善を実現するには、数名の女性が各事業者の中で声を上げるよりも、全国企業横断的なネットワークを作る方が効果的だという考えに至った。
世界のGDPの1割を占め、11人に1人が従事し、その54%を女性が占めると言われる観光業。日本におけるその賃金水準は全産業と比較して73%にとどまり、男女間の賃金格差が74.8(男性を100とした場合)というのだから、観光業で働く女性の労働環境がどのようなものであるかは推して知るべしである。
2025年は多様性、公平性、包括性といった機会均等への造詣を深めながら観光業のサステナビリティ経営推進をサポートしていきたい。
株式会社Omotecort代表取締役 サステナビリティコンサルト 井川今日子氏