
インバウンドに沸くニセコで働く人の時給が2千円というキャッチな見出しが昨年躍った。実際に2千円を超える募集を出している企業もあるが、実態としてはエン・ジャパン調べの1436円というのが相場観のようだ。それでも、ローカルエリアとしては非常に高く、東京世田谷区の1430円を超える形となり話題となった。このことが何を意味するのであろうか。
まずは単純に観光業で働くスタッフの賃金が上昇したことになり、これは単純に喜ばしいことである。長らくサービス業は賃金が低迷し、人材の獲得や定着に苦労してきたという歴史がある。
観光業やサービス業で働くスタッフが高収入を得られるということは職業としての魅力が増すので、人材の獲得や定着にとっては追い風となるであろう。
また、今までとは逆で他の産業からの人材の流入が見込める形になるので、こちらも観光業としてはプラスに働く。
一方で、他の産業からという視点で見ると、ニセコのような限られたエリアにおいては、突出して高い賃金体系のある産業に人が集中する事態を招くことになり、地域のバランスを崩す事態になりかねない。このあたりのバランスは難しいところである。
そして、同じ観光事業者の中でも、高い時給を提供できる企業とそうではない企業に分かれることも想定される。
とりわけ同じような職種であれば、高い時給を提供できる企業に人材が集中することになり、結果として高い時給を提供できない企業は人材が確保できず、売り上げの最大値を取ることができず、じり貧になり淘汰(とうた)されていくという結果になるであろう。残念ながら、これが資本主義の残酷な側面であり、ダイナミズムである。
そして、これはニセコという限定的な話にとどまらない。インバウンド需要をうまくとらえたエリアはすべからくこの可能性を今後秘めている。
インバウンド6千万人時代はこういった事態も引き起こすので、自エリア、および自施設の戦略とポジションを見誤らないでいただきたい。
(株式会社アビリブ・株式会社プライムコンセプト 内藤英賢)
(観光経済新聞2025年2月24日号掲載コラム)