
AIやデジタル技術の進化が加速する今、大企業は最先端のテクノロジーを活用し、効率化を進めているように見える。しかし、順風満帆に思える企業でも、成功の裏には地道な努力がある。世界最大級のホテルチェーン、マリオット・インターナショナルの事例は、その重要性を改めて示している。
マリオットは、AIを活用したマーケティング強化を進める一方で、業務プロセスの複雑化やデータ管理の不備が成長の妨げとなっていることを認識。改革の第一歩として、(1)業務プロセスの「見える化」、(2)データの追跡と正確性の確保、(3)システム導入時の文書化、(4)責任の明確化という基本的な施策を徹底した。これにより、業務スピードが約2倍になり、収益も目標の6倍を達成した。AIを活用する以前に、まず組織の「足元を固める」ことが不可欠だったのだ。
これは国内の旅館業やホテル業にも示唆を与える。近年、宿泊業界でもデジタル化が進み、予約管理システムやAIを活用したサービス向上の動きが広がっている。しかし、どれほど優れた技術を導入しても、業務プロセスが整理されていなければ十分な効果は得られない。例えば、予約管理の流れを明確にし、スタッフがスムーズに情報を共有できる仕組みを整えるだけで、業務の無駄を削減し、顧客満足度の向上につなげることができる。
また、データの活用も重要だ。顧客の好みや宿泊履歴を分析し、パーソナライズされたサービスを提供することで、リピーターの増加や単価向上が期待できる。マリオットの事例から学ぶべきは、最新技術に頼る前に、まず業務の基本を整え、組織全体で「どこを改善すべきか」を明確にすることだ。
AI時代の到来に浮足立つのではなく、まずは自社の強みと課題を見極め、基本を徹底することが、長期的な成長につながる。最新技術は、それを支える基盤があってこそ、真の力を発揮するのだ。
(株式会社アビリブ・株式会社プライムコンセプト 内藤英賢)