コロナ禍での事業再構築
訪日獲得へアルパインツアーと提携 人を重視し、付加価値高い商品を
――現在の業況は。
「コロナ以前は、主にシニア向けに海外旅行のツアーを販売してきた。現在は渡航制限や帰国後に隔離期間があるなど、海外旅行は全て中止を余儀なくされ、厳しい状況にある。一方で、21年秋に発表した22年の『クルーズの旅』(平均価格150万円)は発表から間もなく完売となり、海外への需要の高さを感じている。22年4月からの『ヨーロッパの旅』は、1月から販売する」
――海外旅行が催行できない中、国内旅行での動きは。
「約15年前から日本の旅チームを立ち上げ、国内旅行にも注力している。ツアーは旅の案内人が同行する『グローバル雑学(うんちく)観光』や、各地のお祭りなどに合わせた『日本を愉しむ旅』をシリーズ化している。各旅行には古事記や日本書紀などのテーマを設け、歴史の舞台を訪れる他、各地の職人の匠の技を間近で体感するなど、個人の旅では体験が難しい内容を心掛けている。コロナで一時休止した20年春以降は8月から国内ツアーの催行を始め、音楽家が同行する『音楽のある旅』が特に人気だ。音楽に携わる方たちに演奏する場を提供することにもつながっている。国内旅行の数字は、19年から20年が14%増(20年3~7月はツアー催行なし)、20年から21年は約2倍と上がってきている」
――海外渡航再開時に向けたインバウンド対策は。
「コロナ前より、欧州現地のパートナーから、グループを受けてほしいという依頼があり数組の手配を実施してきた。JR九州の豪華列車『ななつ星in九州』は毎年2回チャーターを実施しており、今年は24回目を数えた。海外からのお客さまにもこの列車のキャビンを提供して、好評をいただいている。コロナ収束後も海外パートナー会社と相互送客を図ってゆきたい」
――最近、訪日旅行への本格参画としてアルパインツアーと提携した。
「アドベンチャーツアーで歴史と実績がある、アルパインツアーと弊社のラグジュアリーコンテンツを組み合わせることで、より多様な旅を提供できるのではないかと考え、アルパインツアーサービスの芹澤健一社長とアイデアを出し合い提携した。共同プロジェクトとして『ACT JAPAN』を立ち上げた。ACTの名は『Adventure Culture Travel』の頭文字から取っており、プロジェクトでは欧米の富裕層に対して、人気が高いアドベンチャートラベルを提案する」
――訪日を進める上での課題は。
「日本の旅のコンテンツ流用だけでなく、体験価値をさらにどう上げるかを考えている。スペシャリストによる案内として、例えば京都の庭園観賞には、英国やカナダでガーデニングを学んだ専門家に海外との文化の違い、背景などを外国語で伝える内容にしている。また、食事の場でも、老舗料亭のカウンターで、シェフと英語でコミュニケーションを取りながら楽しんでもらう内容を盛り込んだ。これは私たちが人と人のネットワークで作り上げてきたものなので、OTAなどのシステムだけでは実施が難しいものだと考えている。今後は、各地域でのコンテンツの掘り起こし、地域と交流できる環境づくりも進めていく」
――富裕層獲得への鍵について。
「観光地や宿泊施設を案内するだけでは満足していただけない。私たちが提案する旅では、職人、語り部との場をセッティングするほか、旅の中で『地域を識(し)るストーリー』を重視している。必要であればホテルの全館貸し切りも行う。来年は音楽の旅で上高地の帝国ホテルさんを貸し切りにさせていただく予定だ。お客さまの声を聞きながら、本当に求めているものを提供しなければならない」
――会社の強みは。
「コピーできない付加価値の高い商品を作ること。特に当社は『人』を重視している。音楽家、シェフ、ソムリエなどの人と行く旅も人気だが、特定のガイドやツアーコンダクターと旅をしたいという声も多い。人と体験を掛け合わせることでオリジナリティにつながる」
――宣伝、販売手法は。
「販売は9割が直販で、電話での受注が中心である。顧客の多くがシニア層なので、案内は紙のパンフレットの郵送による。最近は、オンラインでの情報発信も強化しており、約3千件のツアー参加者限定メールのほか、公式LINEを使った案内もしている。コロナ禍では、海外旅行への熱を冷まさないよう、弊社が実施してきたカルチャーサロンやサロンコンサートなどの動画配信を行った」
――最近でのツアーの催行、単価について。
「コロナが発生した20年は、8月から年末で約60本を催行した。国内旅行の平均単価は、2泊3日で1人30万円程度だ」
――旅行外事業は。
「昨年9月から高齢者向けホーム『サンシティ』と提携し、入居案内の見学会を行っている。社内にシニアライフデザインチームを設け、現在までに5組が成約となっている」
――今後目指す位置は。
「現在の社員数は約50人で、これ以上大きくするつもりはない。会社のテーマは『シニアの心の財産づくり』であるが、旅行業にとどまらず、『ホスピタリティ産業』として、一生の思い出に残るイベントを創造していきたい。結果として、『お客さま満足度』で一番を目指したい」
※しばざき・さとし=1962年生まれ。84年に武蔵大卒業後、独フランクフルト大に在籍。98年に同社に入社。2000年から取締役、17年から代表取締役専務を経て、今年11月1日から現職。
【聞き手・長木利通】