コロナ禍でのDMOの取り組み 観光庁シンポジウムから 


地域の安全確保、観光需要下支え

温泉地主導で感染症対策指針 混雑予報や予約制で密回避

 観光庁主催の全国観光地域づくり法人(DMO)シンポジウムが11、12の両日、オンラインで開催された。コロナ禍におけるDMOの先進的な取り組みについて、京都市観光協会(京都市)、豊岡観光イノベーション(兵庫県豊岡市)、八ケ岳ツーリズムマネジメント(山梨県北杜市、長野県富士見町、原村)の報告内容を紹介する。

京都市観光協会DMO企画・マーケティング専門官・堀江卓矢氏

 京都観光における新型コロナウイルス感染症対策のガイドラインを関係団体と連携して昨年7月に策定し、対策に取り組む事業者にステッカーを配布した。ステッカーは1万店舗以上で掲示されている。信頼性を高める必要があり、店舗、施設には2次元コードを掲示してもらい、利用者に対策の実施状況に関するアンケートに答えてもらうシステムを導入した。回答結果は事業者や協会で確認し、改善に生かす。回答者にはギフトカードを抽選で送っている。

 京都観光への潜在需要の可視化にも取り組んでいる。市内の主要ホテルの宿泊実績などは把握しているが、来訪者の実績だけでなく、旅行前の予測値を示すことで事業者の判断を確かにする必要がある。そこで京都観光に関する主要サイトの閲覧者数などを情報の分野ごとに把握して指数化した「行こう指数」を開発して分析を始めた。また、宿泊予約サイトにおける宿泊料金の販売価格のデータも収集している。

 コロナ禍によって「行こう指数」と実際の宿泊者の動向には乖離(かいり)が見られたことから、旅行前の人たちとの接点を確保する施策を強化していく。自宅にいてもウェブサイトで京都観光の魅力を体験できるコンテンツを配信したほか、京都ファンのSNS上のコミュニティの活動を支援することも検討している。

 感染症対策を実施して実際に京都を訪れる旅行者に対しては、混雑や3密を回避する旅行を提案。日程、時間帯の分散化では、ウェブサイト上で混雑状況を可視化。コロナ以前からオーバーツーリズム対策で実施していたが、ビッグデータを活用して混雑予測の情報を提供している。定点カメラによる動画でのライブ配信も行う予定。3密の回避では、ハイキングコース、自転車観光などアウトドアのウェブコンテンツを強化。予約制による混雑回避では、寺の特別拝観に事前予約システムを導入し、需要の平準化につなげた。

 

豊岡観光イノベーション経営企画部長・川角洋祐氏

 城崎温泉は、昨年春の緊急事態宣言時には、4月27日から5月31日まで全旅館が休業する対応をとった。営業再開に向けては、「城崎温泉における新型コロナウイルス感染症対策ガイドライン」を5月29日付で作成。城崎温泉は「温泉街が一つの旅館」というコンセプトでまちづくり、おもてなしを進めており、旅館だけでなく、飲食店、物産店など全ての業種を対象とする指針にした。この城崎温泉の取り組みを発展させ、豊岡市全体のガイドラインも策定された。

 地域住民や来訪者に観光事業者などの取り組みを理解してもらうため、豊岡市などと共に、8月に新型コロナウイルス感染症対策の認証制度「CLEAN and SAFE TOYOOKA」を立ち上げた。各分野の専門家の意見を踏まえ、市内の観光関連事業者を網羅し、対策のチェック項目を設けた。

 認証制度は、豊岡市が実施した市民へのクーポンの配布など市内での宿泊や飲食の需要を喚起する事業「STAY豊岡」や「EAT豊岡」などに事業者が参画する際の要件になったことで、感染の防止だけでなく、地域経済の活性化に貢献した。

 インバウンドでは、コロナ禍で旅行ができなくなった外国人に向け、動画や写真で豊岡での旅行を体感できる「エア旅行」のコンテンツをSNSで配信している。インスタグラムやフェイスブックを通じ、英語、中国語繁体字で情報を発信。コロナ前に比べてフォロワー数は増加している。

 ただ、インバウンドの誘客が当面見込めないため、事業の一部を見直し、国内向けのプロモーション「ふらっと、リトリートToyooka」を昨年7月に開始し、ウェブサイトを立ち上げた。まずはマイクロツーリズムとして市民、豊岡市周辺の住民をターゲットに、ガイド同行の街歩きや山歩きなど地域の魅力を再発見するプログラムなどをPRした。

 

八ケ岳ツーリズムマネジメント代表理事・小林昭治氏

 観光圏整備法に基づく八ケ岳観光圏、観光庁登録制度の地域連携DMOとして、「真の住んでよし、訪れてよし」を目指し、地域住民の合意形成と意識啓発を最重点に置いている。住民自身が誇れる地域でなければ、来訪者も、リピーターにも魅力はない。まず合意形成、官民連携、地域連携。次に、交流人口に不可欠な地域住民の巻き込み。これができた上で国内外の来訪客の受け入れ環境整備がある。さらに持続可能な観光地域づくりに向けて、SDGs(持続可能な開発目標)の視点を取り入れ、事業を推進している。

 地域づくり、事業の推進には中核人材が欠かせない。八ケ岳観光圏では、研修を受けた「観光地域づくりマネージャー」13人が中心となっている。宿泊やガイドなど観光だけでなく、農業、食、ITなど専門分野が異なった人材だ。彼らが地域の課題を抽出し、解決に動き、地域住民を巻き込んだワークショップを開催している。ワークショップの開催は年間40回に及んでいる。また、子どもたちに地域の価値を知ってもらうことも大切。八ケ岳観光圏の魅力をまとめた「八ケ岳おもてなしBOOK」を作成し、地域内の小学生高学年に配布している。

 ウィズ・コロナの取り組みでは、宿泊施設や飲食店などの感染予防対策を個々に現地確認した上で認証する山梨県の「やまなしグリーン・ゾーン認証制度」、あるいは長野県による「新型コロナ対策推進宣言」制度を活用した。県の施策を地域内の事業者に普及し、取り組みを徹底するよう促した。関係者向けに感染症対策のハンドブックを作成したり、ワークショップを開催したりするなど、地域全体で感染防止を推進した。

 新しい旅のプログラムづくりでは、コロナ禍で市場が縮小し、新たな客層の取り込みが課題となったため、いわゆるローカルツーリズム、マイクロツーリズムに取り組んだ。観光庁の誘客多角化事業を活用し、感染症対策を徹底した少人数ツアーで、ガイドの案内によって八ケ岳の魅力を再発見する滞在プログラムなどを企画した。

 いかなる時、いかなる場合でも、適切に対応するには、観光庁のDMO登録制度の要件にある通り、「地域における多様な関係者の合意形成」が重要だ。コロナ禍であっても、合意形成ができていれば、しっかりレスポンシブに取り組むことができる。   

 
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