シンガポールは3月15日、国家としてグローバル・デスティネーション・サステナビリティ認証を取得したと発表した。
シンガポール政府観光局(以下、STB)は、グローバル・サステナブル・ツーリズム協議会(以下、GSTC)に対して国家レベルで初めてサステナビリティ認証を申請し、同協議会の「地域基準」(以下、GSTC-D)に基づいて、持続可能なデスティネーションとして認証されました(注1)。これは、持続可能な都市型デスティネーションを目指すシンガポールの取り組みを反映するものです。
GSTCは持続可能な旅行と観光のための世界的な基準を設定しており、この基準に基づいて、シンガポールは、持続可能なマネジメント、社会経済の持続可能性(社会経済的影響)、文化の持続可能性(文化的影響)、環境の持続可能性(環境への影響)の4つの柱におけるパフォーマンスが評価されました。今回の認証取得は、STBの「ツーリズム・サステナビリティ戦略」にも合致しています。「ツーリズム・サステナビリティ戦略」は、シンガポールが持続可能なデスティネーションとなるために、観光業界向けに実行可能な戦略を定めたもので、2022年に開始されました。
シンガポールの国家としての認証取得は、セントーサ開発公社、リゾート・ワールド・セントーサ、マリーナベイ・サンズ・シンガポールなどの主要な観光パートナーが、関連するGSTC基準に基づいて類似する認証を取得したことに続くものです。
STBのキース・タン(Keith Tan)長官は、次のように述べています。「今回の認証取得は、『シンガポール・グリーンプラン2030』へのコミットメントと、環境負荷を抑えて最高の体験を提供する『自然の中の都市(a City in Nature)』を目指す取り組みを反映したものであり、大変誇りに思います。これは、私たちが持続可能なデスティネーションになるための旅の始まりにすぎません。観光業界の皆様には、より環境に優しく、より住みやすいシンガポールの実現に貢献できるよう、サステナビリティを自社のサービスの一部として組み込むために、さらに努力していただく必要があります。私たちのビジョンは、世界有数の持続可能な都市観光地になることであり、そこに向けた正しい道を歩んでいることを実感しています。」
GSTCのCEOであるランディ・ダーバンド(Randy Durband)氏は、次のように述べています。「国家戦略である『シンガポール・グリーンプラン2030』を支援するというシンガポールの観光セクターの献身は、持続可能な観光に対する同国の全体的アプローチからも見て取れます。私たちは、観光産業の主要部門を有意義な方法でサステナビリティ活動に巻き込もうとする同国の取り組みを確認しています。GSTC-Dの取得には、このような水準のコミットメントと全体的アプローチが求められます。私たちは同国の取り組みを高く評価するとともに、そのサステナビリティの改善に向けた継続的な取り組みを支援できることを嬉しく思います。」
STBは今後もパートナーと共に、シンガポールのデスティネーションとしての既存の強みを生かし、改善すべき分野への取り組みを強化していきます。以下は、4つの柱におけるシンガポールのサステナビリティ・パフォーマンスのハイライトです。
持続可能なマネジメント
シンガポールは現在、「シンガポール・グリーンプラン2030」など、持続可能な経営に関する複数年にわたる戦略や行動計画を実施しています。2021年に発表された「シンガポール・グリーンプラン2030」は、今後10年間のシンガポールのサステナビリティに関する野心と目標を明らかにし、国連の「持続可能な開発のための2030アジェンダ」と「パリ協定」の下での公約を強化しながら、2050年までに二酸化炭素排出量の実質ゼロ(ネットゼロ)を達成する立場を表明したものです。
もう一つの例は、「シンガポール・グリーンプラン2030」に沿って策定された「ツーリズム・サステナビリティ戦略」です。この戦略では、観光業界のサステナビリティへの取り組みとして、「持続可能な都市型デスティネーションとなる」「持続可能な観光セクターを構築する」「持続可能な都市型デスティネーションとしてシンガポールを紹介する」という3つの戦略的重点分野を掲げています。たとえば、STBは業界組織と緊密に連携し、「ホテル・サステナビリティ・ロードマップ」と「MICEサステナビリティ・ロードマップ」を共同策定し、観光業界者向けの明確な目標(注2)を設定しました。
社会経済の持続可能性
また、シンガポールは、観光が国内の人々にもたらす社会的・経済的な利益を最大化するための取り組みも示しています。これには、シンガポール国内の起業家の支援や紹介、安全で安心な労働環境の提供、ユーザーフレンドリーな建築環境、観光におけるキャリア機会やトレーニングの支援などが含まれます。
STBが提供する「ツーリズム・サステナビリティ・プログラム(TSP)」は、従業員の能力開発からテクノロジーの活用、持続可能なソリューションの実証基盤の提供まで、サステナビリティに向けた道のりのあらゆる段階において観光事業を支援しています。
また、国家的イニシアチブ「Made With Passion(MWP)」(注3)は、100以上のシンガポール国内の伝統的なブランドにスポットライトを当て世界的に宣伝している他、2019年に建設された「デザイン・オーチャード」では、国内の才能を開花させることを目的とした統合小売店とインキュベーションの場を提供しています。
雇用の面では、STBが2022年1月に設立した「ツーリズム・キャリア・ハブ」を通じて、シンガポール国内の人々のジョブマッチング、進化する需要に対応した労働者のスキルアップ、ビジネス変革の取り組みを推進しています。
文化の持続可能性
シンガポールでは、有形・無形の遺産を保護し、その価値を高めるためにさまざまな取り組みを行っています。たとえば、7,200以上の保存建造物、歴史地区全体、国定記念物を保護するための法律や保存ガイドラインがあります。シンガポール植物園は2015年に、ユネスコ世界遺産に登録された、アジア初で唯一の熱帯植物園となりました。また、シンガポールのホーカー文化は2020年12月16日に、シンガポールで初めてユネスコの人類の無形文化遺産の代表的な一覧表に登録されました。
また、STBはシンガポールの伝統を祝うため、毎年、文化地区でのライトアップや祝典など、シンガポールの多様な文化を紹介するビジター体験を支援しています。たとえば、チャイナタウンの中秋節、ディパバリ、ハリ・ラヤ・ライトアップなどです。
環境の持続可能性
シンガポールは、緑を充実させ、緑地間の生態学的なつながりを強化し、生物多様性を保全するために、さまざまな施策を実施しています。たとえば、2020年に始まった「OneMillionTrees(ワン・ミリオン・ツリー)運動」は、2030年までに地域社会の協力を得て、シンガポール全土に100万本の木を追加で植えることを目指しており、その目標は達成されつつあります。また、希少な資源を管理するために、具体的な目標を設定し、実社会でサステナビリティ応用を実証しています。また、2050年までにネットゼロを達成するという気候に関する国際公約を強化している一方、2030年までに建築物の80%(延べ床面積)を環境に配慮したグリーンビルディング(注4)にすることを約束しており、現在までに半数以上の建物でグリーン化を完了しています。
観光商品と体験も、サステナビリティを考慮して開発されています。たとえば、シンガポールの多くのホテルでは、サステナブルな機能をデザインに取り入れており、環境に配慮した取り組みが評価され、賞を受賞したホテルもあります。2020年、マリーナベイ・サンズのサンズ エキスポ&コンベンションセンターは、シンガポールで初めてカーボンニュートラルなMICE会場となりました。150万本以上の植物を植えたガーデンズ・バイ・ザ・ベイは、「自然の中の都市(a City in Nature)」というシンガポールの国家ビジョンを体現しています。旅行会社も、シンガポールの豊かな生物多様性、および水、電力、廃棄物管理、地域文化に関する取り組みなどを紹介する、サステナビリティに焦点を当てたツアーを提供しています。
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(注1)イタリアに本社を置くGSTC公認認証機関、Vireo Srlにより認証されました。
(注2)例:2025年までにシンガポールの全ホテル客室数の60%で、国際的に認められたサステナビリティ認証を取得、2025年までに6つのMICE専用施設のすべてで、国際的または国内で認められたサステナビリティ認証、あるいはその両方を取得。
(注3)「Made with Passion(MWP)」は、Singapore Brand OfficeとSTBが主催し、シンガポール企業庁(Enterprise Singapore)が支援する、シンガポール国内のライフスタイル・ブランドに対する消費者の認知と評価を高めるための国家的マーケティング・イニシアチブです。
(注4)シンガポール建築建設庁(BCA)が定める環境のサステナビリティ向けの最低基準を満たすもの、BCAグリーンマーク認証を取得したもの、シンガポール住宅開発庁(HDB)の「Green Towns」や「SolarNova Programme」の取り組みを実施したものが、グリーンビルディングとみなされています。
グローバル・サステナブル・ツーリズム協議会について
グローバル・サステナブル・ツーリズム協議会®(GSTC®)は、GSTCクライテリア(基準)と呼ばれる持続可能な旅行と観光のためのグローバルな基準を設定し、管理しています。基準は2つあり、公共政策立案者やデスティネーション・マネージャー向けの「地域基準」と、ホテルやツアーオペレーター向けの「観光産業向け基準」です。GSTC基準は、観光における持続可能性に関する共通言語を開発するための世界的な取り組みから生まれました。基準は、(A)持続可能なマネジメント、(B)社会経済的影響、(C)文化的影響、(D)環境への影響、の4分野で構成されています。
GSTC基準は、ホテル/宿泊施設、ツアーオペレーター/運輸業者、および観光地が持続可能な方針と慣行を備えていることを認証する認証機関の「認定」のための基礎を形成します。GSTCは、製品やサービスを直接認証するのではなく、パートナーであるAssurance Services International(ASI)を通じて、認証機関を「認定」するプログラムを提供しています。
GSTCは独立した中立の組織で、米国で非営利団体(501(c)3)として法的に登録されており、持続可能な観光におけるベストプラクティス達成に向けて努力している国や地方政府、大手旅行会社、ホテル、ツアーオペレーター、NGO、個人、コミュニティなど、多様でグローバルな会員に支えられて活動を行っている国際非営利団体です。