ニッポンの「温泉文化」、その魅力と可能性 「温泉文化」ユネスコ無形文化遺産全国推進協議会 会長 青柳正規氏に聞く


「温泉文化」ユネスコ無形文化遺産全国推進協議会 会長 青柳正規氏

社会で重要な役割持つ 関係者は魅力にさらに磨きを

 「温泉文化」のユネスコ無形文化遺産登録に向けて昨年4月に設立された「『温泉文化』ユネスコ無形文化遺産全国推進協議会」(事務局=全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会)。その会長を務める文化庁元長官で、現在は東京大学名誉教授、日本学士院会員、多摩美術大学理事長などを務める青柳正規氏に「ニッポンの『温泉文化』、その魅力と可能性」をテーマに話を伺った。(聞き手=本社・森田淳)

 ――日本の「温泉文化」について。その魅力をどう捉えるか。

 日本は火山国で、火山による自然災害もあるが、その一方で美しい自然景観や、地熱による温泉の湧出が世界各国に比べて圧倒的に多い。火山の恵みを多く受けているということだ。

 そして単にお湯が出るというだけではなく、そこに旅館をはじめとするさまざまな施設ができ、われわれ日本人はこれらを巧みに活用する方法を生み出した。

 温泉に入り、おいしいものを食べて、気分を和らげて、次の仕事に備えるという、生活のリズムをうまくつくっている。

 温泉は人々の健康増進の役割も果たしてきた。温泉で体を治療する湯治が古くから広まっているが、それは現在医学の見地から見ても理にかなっている。

 現代も少し時間があれば「温泉に行きたいね」などと、多くの人が自然に言っている。

 日本社会の中で、温泉文化というものは、もはやなくてはならないものになっている。温泉文化を守ることは非常に重要だ。

 しかし、温泉が存在する地方の一部では、近年の少子高齢化で、地域のコミュニティが崩れつつある。

 地域の人たちが温泉文化を見直し、誇りに思い、たくさんの人々に利用をしてもらえるように努力を重ねることが今、必要なのではないか。

 

 ――ご自身の温泉に関する体験、経験談などを。

 祖母が住んでいた佐賀県の嬉野温泉に小学校の夏休みの時に行ったのが記憶に残る最初の温泉体験である。広い大浴場をプールのようにして泳いだり、お湯を飲み込んだら普通の水と違う味がしたのが今でも記憶に残っている(笑)。

 20年ほど前に行った鹿児島県の菱刈温泉は鉱山の近くの温泉で、入ると肌がつるつるして、体が何時間もぽかぽかとしている。「温泉はすごい効能を持っている」と、まさに肌で感じた。子供の頃から好きだったが、それで温泉がなお好きになった。

 今はシティホテルでも温泉があるところを選んで泊まっている。温泉が宿を選ぶ基準になっている。一晩寝て、朝起きたらすぐに温泉に入る。私は血圧が少し高いのだが、温泉でリラックスすると、その日は1日下がっていたりする。温泉の効能を実感する。

 

 ――協議会について。今後の活動方針は。

 文化庁、政府はもちろん、多くの国民にその気になってもらわなければならない。まずは100万筆の署名を集めて政府に届けたい。

 さまざまな分野が無形文化遺産への登録を目指している。そこから一歩、抜きん出るにはいかに多くの署名を集めるかが重要になってくる。

 全旅連(全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会)をはじめ、関係するさまざまな組織からお願いをすることになる。温泉旅館に泊まったお客さまをはじめ、多くの方の賛同を頂きたい。

 

 ――登録の実現に、業界関係者に求められることは。

 温泉文化を構成する要素、それぞれがどれだけ充実しているかが問われる。お湯の良さに限らず、お客さまのもてなし方や施設、景観など、さまざまなものが挙げられる。

 温泉地は人々の病気やけがを治す湯治場、そして疲れた心と体を癒やし、次に向かおうという気持ちを呼び起こす保養地としての役割がある。長い歴史に培われた物語性があり、その土地で生まれた地域特有の工芸品など、文化の発信地でもある。これらが一体となって温泉文化というものができているのだろう。

 関係者の皆さまは、それぞれの良さに今まで以上に磨きをかけていただきたい。

 

 ――「あらゆる場面で温泉文化の価値や魅力をPRする」という「温泉文化大使」の第1回発表が行われ、青柳会長をはじめ、12人が決まった。

 お会いする人たちに温泉文化の良さを伝えること。そして署名をお願いして、早く100万筆を達成すること。これが大使としての重要な役割と認識している。

 

 ――弊紙読者の温泉旅館経営者に激励のメッセージを。

 旅館は単に宿泊をする場ではなく、人々の心と体を癒やし、エネルギーを蓄えて、次のステップに進んでもらうという、重要な役割を持つ。

 それぞれが担ってきたこれらの役割に今後もさらに磨きをかけて取り組んでほしい。

 旅館は労働集約型の産業だが、今はどの業界も人手不足で、働く人を集めることが難しくなっている。それぞれが魅力を高めることで人々の注目が集まり、若い人をはじめ、働く人も増えてくるのではないか。

 青柳 正規氏(あおやぎ・まさのり)1944年11月21日生。東京大学文学部卒。同大学院修士課程修了。同大学教授、文学部長、副学長等を経て、2005年国立西洋美術館長。08年独立行政法人国立美術館理事長。13~16年文化庁長官。現在は、山梨県立美術館館長、多摩美術大学理事長、奈良県橿原考古学研究所所長、石川県立美術館館長、せたがや文化財団理事長、アーツカウンシル東京機構長、他。

5月24日に行われた協議会の総会。登録に向けて機運を高めるさまざまな取り組みを行うことを確認した

 
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