日本政府観光局(JNTO)は18、19日、賛助団体や会員企業を対象にしたインバウンド旅行振興フォーラムを東京都内で開催し、海外事務所長らが市場ごとの旅行動向を解説した。その中から東アジア4市場(中国、韓国、台湾、香港)について紹介する。東アジア4市場は、過去最高となった18年の訪日外国人旅行者数3119万人のうち約7割を占めている。リピーター化が進み、地方への誘客のチャンスも高まっている。
路線拡充、テーマ旅行需要も高まる
■中国
18年の訪日旅行者数は前年比13.9%増の838万人。台風による関西空港の閉鎖や北海道胆振東部地震の影響は一時的で、過去最高を記録した。
19年の訪日旅行を取り巻く環境としては、プラス要因に(1)旺盛な外国旅行意欲(2)日中関係の改善―が挙げられた。マイナス要因には(1)米中貿易摩擦の影響による中国経済の減速(2)日中間の航空座席の逼迫(ひっぱく)―の可能性が指摘された。
JNTO北京事務所の服部真樹所長は「懸念材料を抱えつつも、訪日旅行需要は引き続き旺盛な見通し。日中関係の改善効果にも期待。教育旅行の誘致や航空路線の新増設に取り組む絶好の機会だ」と解説した。
中国からの訪日旅行者は、家族旅行層と20~30歳代の若者層でほとんどを占める。個人観光数次ビザ(査証)の発給で、近年、リピーターが急増し、全体の約4割を占めるまでになった。個人旅行化、リピーター化に伴い、東北、中国、四国など地方への旅行も増加。スキー市場も急成長中で、「『爆滑り』という言葉も訪日旅行に関して使われるようになり、スキー初心者や家族旅行で楽しむ人が増えている」(服部所長)。
訪日リピーターを意識したデジタルプロモーションでは、(1)「顔値」の高い(フォトジェニック、インスタ映えする、の意味)コンテンツによる興味喚起(2)訪日旅行や情報閲覧の行動履歴に応じたターゲティング広告の配信(3)訪日旅行中の囲い込みに向けて、中国で日常的に利用されているアプリ「微信Wechatミニプログラム」の活用―などを提案した。
■韓国
18年の訪日旅行者数は前年比5.6%増の754万人。韓国経済の伸び悩みの一方で、外国旅行の需要は堅調。訪日旅行は自然災害の影響を除けば、安定的に推移した。
今後の訪日旅行の見通しでは、韓国LCC(格安航空会社)の地方などへの路線拡充がプラス要因。また、日韓の外交関係の悪化については、「観光にはほぼ影響がない」(JNTOソウル事務所の山田敬也所長)との見方が示された。
韓国の消費トレンドについては、「『自分』『今』を満足させる消費」として、多様な価値観に響くコンセプトやストーリー性のある商品・サービスが求められると解説。個人旅行化、オンライン手配化で旅行会社の利用機会は減少しているが、地方旅行、テーマ旅行などの需要の高まりで、パッケージ旅行も重要な選択肢になり得るという。
■台湾
18年の訪日旅行者数は前年比4.2%増の476万人。自然災害の影響で前年同月の実績に対して9~11月がマイナスとなったが、「北海道ふっこう割」が台湾のメディアに大きく取り上げられるなど、その後は着実に回復している。
地方空港路線の新規就航などで訪問地の地方分散が進んでいる。訪日台湾人旅行者の都道府県別延べ宿泊者数の伸び率(18年1~9月)の上位10位には、東北6県全てが入るなど、地方部の伸びが目立った。
航空路線の地方への誘致には、地元関係者のセールス、観光資源の認知度アップなどが鍵。成功事例には、18年8月から週2便、タイガーエア台湾が就航している花巻―台北線、19年7月から週2便、エバー航空が就航する青森―台北線を挙げた。
個人旅行化、オンライン手配化が進むが、地方旅行、中高年層旅行などでは、現地旅行会社と連携した誘客の余地も依然大きい。訪日旅行者のリピーター率は約8割で、アウトドア、芸術などテーマ旅行の需要も高まっている。一方でリピーターが訪日未経験の友人、家族などを誘う旅行需要の掘り起こしなども必要という。
■香港
18年の訪日旅行者数は前年比1.1%減の221万人。相次いだ自然災害、香港経済の後退感の中でマイナスとなったが、安定した市場で旅行先としての日本の人気は高い。定期直行便の就航も続く見通しという。
訪日経験10回以上といった高頻度の訪日リピーターの割合が高く、その需要は堅調。訪日経験回数が増えるほど、消費額が高額となり、レンタカーの利用に抵抗感がないことなどもあり、訪問先が地方に広がる傾向が見られる。
JNTO香港事務所は、現地での訪日観光PRイベントで消費者向けにアンケート(18年7、9月、回答2303人)を実施した。回答者の約9割が訪日経験者で、そのうち約6割に上った訪日旅行を毎年実施している人では、「今後行きたいエリア」として北海道、四国、東北などの地方を挙げる率が高かった。
アンケート結果で「今後やってみたいこと」の回答では、過去に体験していても日本食、温泉、旅館、四季などを挙げる割合は高く、さらに深い体験を求めている意向が見られる。一方でスキー、ハイキング、サイクリングなど未体験の分野への関心もうかがえた。
JNTO香港事務所の薬丸裕所長は、急成長期から高位安定期へと局面が変わり始めている中で、「高頻度リピーターに対して、斬新なサービス、商品を生み出し続ける必要がある。『これから』のエリアにも誘客拡大のチャンスがある」と指摘した。
JNTOのフォーラム(18日)