京都府内初の認証、他地域への波及も期待
綿善旅館、都和旅館、然林房、お花坊の京都市内4旅館は今年9月、観光品質認証協会運営の宿泊施設認証制度「サクラクオリティ」の「An ESG Practice認証」(サクラクオリティグリーン)で、「3御衣黄(ぎょいこう)ザクラ」を同時取得した。京都府内の旅館の取得は初めて。認証取得により、欧米を中心としたESGやSDGsに関心の高い訪日客らへの訴求効果が期待される。
これまでも北山杉の間伐材を使った箸の導入を連携して行うなど、地域資源の活用や連携による価値の向上などに取り組んできた4旅館。今回、観光庁の今年度事業「宿泊施設向け持続可能な観光にかかる認証・ラベル取得効果実証事業」に参画して取得するに至った。
認証を受けたサクラクオリティグリーンは、サステナブルツーリズムに関するグローバルな基準を策定するGSTC(Global Sustainable Tourism Council)から国際的基準との承認を受けているもの。認証基準は、食品の仕入れ先やゴミの分別、エネルギーのモニタリングのほか、地域文化の保持・保全や従業員の職場環境の満足度に関わるモニタリングなど、環境関連項目や事業性関連項目、社会性関連項目などからなる172項目で構成され、「取り組むことが望まれる項目」「高度な取り組みと評価される項目」が加点項目としてある。
達成度により五つのレベルに分けられ、4旅館は上から3番目の「3御衣黄ザクラ」を取得した。「日本国内で旅館営業を行っている施設であれば、1サクラは取得できる内容だが、3サクラは日本旅館では最高クラスだ」と綿善旅館の小野雅世氏は胸を張る。
4旅館はそれぞれ、自然素材を使い、持ち帰って継続的に利用できるようなアメニティの使用やリネン類の交換の選択肢の提示、地元食材を使った料理の提供のほか、伝統的な技術と自然素材を使った茶室での「やさしい茶会」を通した日本文化を体感する場の提供など、それぞれの宿の特性や立地を生かした取り組みを実施。経営者層がGSTC研修会に参加してプロフェッショナル認証を受けた。
都和旅館の太田佳子氏は、「今回認証を受けたことで、グーグルマップにSDGsエコラベルが付いた。これによって実際に当館を選んで予約してくださるお客さまも出てきている。実際のビジネスにつながるということがもっと広まれば」と話すが、サクラクオリティグリーンの認知は十分とは言えない。今回認証に向け学んだことで、伝統技術の継承などの見地から敷地内のかやぶき屋根のふき替えを始めたという然林坊の馬淵能理子氏だが、「国内にはアメニティをたくさん使えることが最高のもてなしの一部と思っているお客さまがいることも事実。ESGの考え方やSDGsの理念と、お客さまのベクトルがそろっていない現状は悩ましい」との本音も語る。
「現在SDGsについての取り組みを重視するのは欧米のお客さまが中心だが、国内でも若い世代はSDGsを学校で学んでおり、早晩国内でも、常識化、必須の取り組みとなる」と小野氏は指摘。お花坊の小西崇文氏は、「取得までは実際にかなりの手間がかかっている上、認証を維持し続けるにも努力が必要になってくる。海外ではGSTCの認証施設を優先して手配するような旅行会社も多い。取得がしっかりとビジネスにつながるというエビデンスを示していくことが、今後重要になってくる」と語った。
実証事業を担当する、大野一・観光庁観光産業課専門官によると、今回の実証事業には全国10旅館・ホテルが協力するが、同じ地域の複数施設が連携して参加、取得したのは京都市のみという。大野氏は、「取得は手間がかかるが、京都では4旅館が連携することで前向きに取り組んでくれた。地域で連携しての取り組みが他地域にも波及していってくれれば」と期待を示した。
認証証を手にする太田佳子さん(左)、小西崇文さん(中央左)、小野雅世さん(中央右)、馬淵能理子さん(右)