令和5年 旅館の経営指針 リョケン発表


佐野洋一社長

 コンサルタントのリョケン(佐野洋一社長)はこのほど、「令和5年 旅館の経営指針」を発表した。「ゼロベース発想~今できることを探せ!」をテーマに、過去の延長に固執することなく、既存の枠を取り払って新しいこと、変革への可能性を考えることを提言している。膨大な「指針」の中から、今回のテーマに関連する「顧客との関係をゼロベースで考える」の項の一部を紹介する。

 持続的成長を可能にする関係性に親化

 1.顧客を親化させる

 (1)コロナが生んだ旅行意識とリピーター

 コロナ禍の消費行動の変化の一つに、利便性消費からこだわり(プレミアム)消費へ変化しているという報告があります。コロナ禍ではじっくりと情報を集め、自分にとって付加価値の高いものに対価を払う消費スタイルに変化していると言われています。これは旅行に対しても同様で、気分とタイミングで行き先を選んで旅をしていたスタイルから、今自分が求める旅を探すため、スマホを使ってたくさんの情報を探り、その中から行き先を見極めるスタイルに変化しています。膨大な情報の中から私たちの旅館を見つけ、たどり着いたお客さまの中からミスマッチのない新たなファンが誕生しています。

 (2)近隣エリアからの新規顧客

 国や自治体による旅行支援策が断続的に行われてきましたが、Go Toトラベル以降は、エリアを限定した感染拡大を抑えながら旅行を推進する県民割が主流になったため、地元近隣エリアからのお客さまが7割近くになった旅館も多くありました。ある旅館のアンケートでは、「近くて移動のストレスがなくてちょうどよかった」「近すぎて泊まる機会がなかったが、想像以上によかった」などのコメントがあり、地元近隣エリアのお客さまをあまり意識していなかった旅館にとっては気づきを得られる良い機会になりました。

 (3)新しい顧客を獲得するのはスタッフ

 顧客を獲得する上で、自館の評価されている点を分析して明確にし、次の取り組みを実行してみて下さい。

 ●スタッフ全員に自館の強みを共有する

 ●その強みをさらによくするために磨き上げをする

 ●そしてそれを発信する

 自館の強みを商品として提供するのは現場で活躍するスタッフです。彼らこそが強みを理解し磨き上げ、お客さまに伝える役割を果たすのです。

 2.お客さまとの接点は旅館の生命線

 店頭のタブレット注文とキャッシュレス決済、セルフ棚でお客さま自身が商品の受け取りを行うなど、ITで完結するテイクアウト専門の飲食店がありました。新たなビジネスモデルとして華々しく開業したものの、わずか2年で撤退しました。理由としては、顧客との接点をなくしたことだと言われています。

 旅館業界でも、客室への案内を簡略化したり、ビュッフェの導入などで人手不足対策を講じています。お仕着せのサービスを敬遠するお客さまも増えているので、ニーズを把握した上で人手のかかる業務を見直し、効率化と省力化で生産性を向上する良い機会であることは間違いありません。しかし、旅館の顧客体験価値は宿泊体験にこそあります。効率化した分、お客さまとの接点をどう作るか、またその瞬間をどのように体験してもらい、満足度に反映できるかが非常に大切だと考えます。お客さまが20時間近く施設内に滞在する時代になりました。長くなった滞在時間をチャンスと捉え、さまざまな接点を作りだしましょう。

3.ファンを生み出す接点づくり

 (1)フロント・ロビー周辺

 フロント・ロビー周辺は、日常から非日常空間に入り込む、期待感を高める場所です。ここでは、ほかの宿泊客やスタッフの姿も旅行気分を高める好ましい風景の一部として認識されます。自館のスタイルに合わせた「適切なにぎわい」を表現することで、旅の高揚感を演出してあげましょう。

 (2)食事場所

 お客さまに直接接する接客スタッフはもちろんですが、オープンキッチンや実演コーナーが増えたことにより、最近は調理スタッフがお客さまと接する機会が増えています。そのためアンケート評価でも、料理そのものに対するコメントと同様に調理スタッフの態度に対するコメントも増え、中には比較的厳しいコメントが多く見られるのも事実です。お客さまとの触れ合いに不慣れな調理スタッフに対する接客指導が求められます。

 (3)客室

 客室はプライベート空間として入室を求めない傾向ですが、スタッフがいなくても接客を受けたような気持ちにさせることはできます。最近は室内テレビやスマホを活用したデジタルによる館内案内で、快適に過ごせる情報を伝えることができます。また、あえて手書きのウェルカムメッセージで感謝を伝えることも、温もりのあるアナログな手法として再注目されています。特に小規模高単価旅館で積極的に実施されていることを考えると、お客さまが求める旅館の姿として、普遍的な「温もりあるおもてなし」がやはり評価されることを裏付けているのではないでしょうか。

◇     ◇

 顧客との関係をいかに経営に生かすかという視点は、今後の発展の糸口になるはずです。ぜひ、組織全体でその重要性を共有し、仕組みの構築を進めていただきたいです。


佐野洋一社長

 
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