修学旅行の課題と今後 全国修学旅行研究協会 調査研究部長 石原輝紀氏に聞く


全国修学旅行研究協会 調査研究部長 石原輝紀氏

 新型コロナウイルス感染症は完全に終息したとは言えないが、5月8日から「5類感染症」に移行されたこともあり、中学校の修学旅行は中止する学校がほとんどなく全国で計画通り実施されている。しかし、コロナ禍の影響によって、修学旅行を支えている観光業界は今、多くの課題を抱えている。前半では全国修学旅行研究協会の石原輝紀・調査研究部長に観光業界での修学旅行の課題と今後なすべき取り組みについて聞いた。

 新型コロナウイルス感染症は、完全収束とはいかないまでも一定の落ち着きをみせ、22年度は全国ほとんどの学校で修学旅行が実施された。しかし、コロナ禍は、これからの修学旅行実施にさまざまな課題を残している。中でも現在抱える大きな課題2点について考える。

 

課題(1)「人手不足」

 20年、21年と新型コロナウイルスの感染拡大により旅行需要は落ち込み、レジャー業界は甚大な影響を受けた。宿泊、観光、飲食など、いわゆる旅行に関わる業種のほとんどがそのあおりを受け、そしてそれは、倒産、縮小、撤退と進み、人員整理、離職という人材流出となった。

 ある転職サイトへの掲載社数は、各種業界全体では、新型コロナウイルスによる1回目の緊急事態宣言の時期(20年4月)で一時下落したものの、20年8月以降ある程度安定したが、レジャー業界については、20年1月をピークに一気に落ち込み、その後も、その状況は続いた。宿泊、飲食、サービス業従事者が賃金の下落に伴い転職や就職を希望するも、同業界内に求人もなく、他業界に転職したため、現在、レジャー業界は深刻な人手不足に陥っている。

 今、この人材流出による人手不足は、修学旅行の実施に大きな影響を与えている。

 まず、貸し切り観光バスの確保の問題。旅行需要の冷え込みは貸し切り観光バスの稼働を止め、運転手は物流などに転職。今、運転手不足という課題を抱えている。バスはあっても走らせる運転手がいないという状況であり修学旅行ピーク時でのバス確保の困難さが問題となっている。

 次に、宿泊・食事・観光施設などにおける受け入れ体制の問題。団体を受け入れるための人手が圧倒的に足りていない。厨房も団体食に対応できないため外食、仕出しなどで対応するなど努力はしているが受け入れ体制の質の低下は否めない。質の低下はさまざまな問題を引き起こす。アレルギー対応などは間違いがあってはならない最も重要な部分であり徹底した人材教育が求められる。

 他にも、ガイド不足、民泊事業からの撤退、縮小なども人手不足により十分な提供ができないことが懸念されている。

 そして修学旅行を取り扱う旅行会社の人手不足も深刻である。学校訪問、企画提案、打ち合わせから修学旅行実施時の同行と一貫したケアに手が回らないとの実態が聞こえてくる。

人手不足解消と人材教育は喫緊の課題である。

 

課題(2)「物価高騰」

 現在の物価の高騰は、さまざまな範囲に広がっている。当然この高騰は修学旅行費用に直結し、従来の修学旅行が費用面で実施できない状況を生み出している。課題(1)の「人手不足」も影響の一つとして、24年度からは、深刻な運転手不足の解消やさらなる安全(長距離運転手の労働時間規制)への投資に向けた取り組みを着実に実施できるようにすることを目的として、貸し切り観光バスの運賃、料金の見直しも実施される。

 旅行費用高騰の問題は、旅行業界や受け入れ機関だけの努力では解決しない段階にあり、国の行政機関や自治体なども関わり協働することが求められる。いかに児童、生徒たちにとって効果的な修学旅行を与えることができるか知恵を出し合う必要がある。

 修学旅行は、学校単独で実施できるものではなく、さまざまな関係者の協力があって初めて成立するものである。これからの修学旅行のさらなる充実、発展のため、当協会としても最善を尽くしていきたい。

全国修学旅行研究協会 調査研究部長 石原輝紀氏

 
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