全国から400人超える参加者
3月11日で9年を迎える東日本大震災の教訓を世界に向けて語り継ぐ「全国被災地語り部シンポジウムin東北」(阿部隆二郎実行委員長)が2月24、25日、宮城県南三陸町の南三陸ホテル観洋で開かれた。震災の風化を防ぐため若者への教訓の伝承の在り方や津波の爪痕を残す震災遺構などの重要性を伝えようと昨年の熊本に続き5回目の開催となる。
県内外で遭遇した震災体験者や伝承活動に携わる関係者ら約420人が参加。関心の高さを裏付けた。講演やパネルディスカッションを通じ、語り部が「KATARIBE」として世界に通用する方策を学んだ。
震災時に国土交通省東北整備局長で後に同省事務次官を務めた徳山日出男政策研究大学院大学客員教授が「教訓が命を救う『語り部』のもつ尊い使命」と題して基調講演し、ハワイ島(ヒロ)の太平洋津波博物館の事例を紹介した。
德山氏は「台風などの大雨による浸水地域(ハザードマップ)の予測は正確だが、津波(地震)の地域ごとの予測は不可能に近い」と指摘。その上で、「私たちが語り伝えていくべきことは『鎮魂・慰霊』と『教訓・伝承』。日本は世界の津波の3割が発生する宿命の地。災害の悲惨さだけでなく、それを乗り越える知恵を子々孫々語り継ぐことが重要だ。南三陸町には災害と人生を学べるところがある」と話した。
語り部の未来をテーマにしたパネルディスカッションでは、語り部の意義について討論した。
兵庫県淡路市の北淡震災記念公園総支配人の米山正幸氏は「阪神淡路大震災は一挙に工事が始まり映像や写真が東日本大震災と比べ少なく、一部の体験では震災の教訓を伝えられない。情報の共有化はもちろんだが、メディアが伝えない被害状況の記録や写真などの記録の保持が重要だ」と述べた。
岩手県釜石市の旅館宝来館おかみの岩崎昭子さんは「震災がなければ経験できないことはあったが、震災で変わったわけではない。(当地に伝わる)相撲甚句で震災を語ることは、津波の怖さを次世代につなげることに間違いない。これからも語り部の思いを伝えていく」と語った。
宮城県気仙沼市の震災復興・企画部長の小野寺憲一氏は「地域の社会問題の解決なくして真の復興はない。その課題とは災害に強い街づくりと人口減少対策。水産業活性化と人材の育成が急務だ」と真の復興の取り組みについて訴えた。
ドキュメンタリー映画の監督の尹美亜(ユンミア)さんは「制作側が喜ぶ映画ではなく、出演した方の気持ちや行動からそれぞれの感情に訴えることに主眼を置いた。事象は忘れるが、感情は100年たっても忘れない」と映画「一陽来復」の趣旨を解説した。
分科会では、各コーディネーターによる事例の発表が行われた。自助・共助の重要性や未来への伝承と震災遺構との向き合い方について、語り部を学ぶ中高生が討論し発表も行われた。
25日には、シンポジウムの総括と語り部宣言が行われた。
阿部実行委員長
基調講演した徳山氏
変貌する南三陸町の風景。右端に旧防災庁舎が見える(2月25日撮影)