観光庁は、観光施策の新たな財源確保について議論する有識者会議「次世代の観光立国実現に向けた観光財源のあり方検討会」を設置し、15日に初会合を開いた。出国に際して旅行者に課税する「出国税」などの手法を含めた財源の創出を検討。来年度の導入も視野に入れており、検討会では早ければ10月末にも中間報告をまとめる。
観光庁の田村明比古長官は「政府が目指す『観光先進国』の実現には、数だけでなく、質の高いインバウンドの推進が求められている。2020年、2030年に向けて高次元の施策が必要であり、それには一定の財政需要が伴う。財源確保の手法、規模、使途などいろいろな論点があるが、忌憚のない意見を頂戴したい」とあいさつした。
有識者会議の座長には、一橋大学大学院商学研究科教授の山内弘隆氏が就任した。山内氏は「これまでの訪日外国人の増加は官民の努力が実を結んだ結果だが、東京オリンピック、さらに先を見据えた戦略、取り組みが重要だ。その財源をきちんと裏付けていくことが、日本の観光の持続的な発展の柱となる」と述べ、委員に議論を呼びかけた。
論点となる財源確保の手法について観光庁は、海外の事例を紹介した。観光に関係して中央政府レベルで課税、課金している制度は、(1)出入国(2)航空旅行(3)宿泊―などの行為が対象。出国税など出国に伴う徴収は豪州、韓国など。航空税など航空旅行での徴収はフランス、英国など。宿泊に伴う宿泊税などは、多くは地方政府レベルでの徴収という。
税などの徴収に理解を得るため、受益と負担の関係も論点。外国人旅行者だけに負担を求めるには、国際社会の考え方の一つ「内外無差別原則」に留意する必要があるという。例えば、国内産品と輸入品、国内企業と外国企業など、それぞれを同じ条件で扱うべきとする原則で、事例に挙げられた多くの国の制度も、外国人客、国内客を区別していない。
新たな財源は一般財源ではなく、観光施策に充当する方向で議論が進むとみられるが、出入国管理、受け入れ環境整備など、その使途をどのような施策分野に設定するかも課題。徴収の手法、金額などによって生じる旅行需要への影響も検討課題となっている。
次回の検討会に向けて観光庁は、航空、旅行、宿泊、海運などの産業界、地方自治体などの関係者にヒアリングを実施する。検討会では、関係業界などの意見も踏まえ、論点を整理し、財源確保について提言をまとめる。
検討会の座長以外の委員は次の通り(敬称略)。
秋池玲子(ボストンコンサルティンググループシニア・パートナー&マネージングディレクター)▽石井至(石井兄弟社取締役社長)▽大橋弘(東京大学大学院経済学研究科教授)▽デービッド・アトキンソン(小西美術工藝社代表取締役社長)▽冨田哲郎(経団連観光委員長)▽中空麻奈(BNPパリバ証券投資調査本部長)▽林信光(国際協力銀行代表取締役専務取締役)▽吉村政穂(一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授)