地方創生への課題、今後の取り組み 国土交通審議官 水嶋 智氏に聞く


国土交通審議官 水嶋 智氏

不可価値付け「稼げる産業」へ

 ――地方創生・地域活性化、デジタル田園都市国家構想に関し、国土交通省が最も期待する分野、課題、成功例、今後の取り組みを伺いたい。

 デジ田のポイントは二つあり、一つは、デジタルの力を活用した地方創生の加速化、進化だ。もう一つが、東京の一極集中の是正と多極化を図り、地方が抱える社会課題を成長の原動力に切り替えていくこと。構想を受け、7月に国土形成計画が閣議決定されている。シームレスな(継ぎ目のない)拠点連結型国土を目指すことと、デジタルとリアルが融合した地域生活圏の形成に重点が置かれている。国交省が関わる政策分野、施策は非常に広範に渡る。

 シームレスな拠点連結型国土の実現には、幹線の高速交通体系が欠かせない。代表例がリニア中央新幹線の整備。また、地域の課題を成長の原動力に変える際、制約要因となるのが働き手不足で、DX化で解決していく必要がある。国交省所管分野では、交通、物流、インフラ、建築、都市、観光があり、まだまだDX化を推進する余地がある。

 ――ライドシェア解禁問題やタクシーの供給不足について、どのように対応していくか。

 ライドシェアの議論に際し、気をつけないといけないことが二つある。一つは、ライドシェアの定義が明確に定まっていないこと。人によって、ライドシェアという言葉の使い方や概念が異なっており、相当、議論がかみ合ってない点がある。注意しながら、議論していく必要がある。二つ目は、「公共交通が現実に足りていない」という喫緊の課題だ。地域の方々の声だったり、外国人観光客の声だったりするが、それと「新しいビジネスチャンスを拡大していく」という議論は、実は違うものではないか。混同して一緒に議論するのは、必ずしも適切ではない。

 規制改革推進会議のワーキング・グループの議論では、全国ハイヤー・タクシー連合会の川鍋一朗会長が矢面に立たされている。もちろん、タクシー業界に努力してもらわなければならない面もある。人手不足の時代なので、効率化のためにいろいろな設備投資をし、運賃の値上げを通じた賃上げや働き方改革を行う必要がある。利用者にとっても、働き手にとっても魅力ある産業にしていくことが大事だ。

 一方で、都市部で新しいビジネスモデルを作って、ビジネスチャンスを拡大していくべきとの議論は、フェーズ(段階、局面)がちょっと違うのかなと思う。喫緊の課題を迅速に解決することをまず考えた上で、新しいビジネスモデルの提案に対しては、どういう判断をしていくか、多面的に議論していく必要がある。

 大至急、取り組むべき課題は、現実に困っている過疎地の人々の生活交通の確保。それと、急増するインバウンドのお客を国策として増やそうとしている中で、インバウンドを中心とした観光客の観光地での足の不足の問題への対応だ。対策を打ち、具体的に解決していくことがまずは急務。地域や時間帯によって供給が需要に追いついていないことが、いろんなところで指摘されている。

 そのためにまず、タクシーの供給力を徹底的に回復、増加させ、それでも足らないところ、手が回らないところには、自家用有償旅客運送の制度を有効に活用していくことが、地域の課題、地域の人たちの期待に応えるために重要になってくる。タクシーの供給力の徹底的な回復策と自家用有償の徹底的な活用策については、観光立国関係閣僚会議で10月18日、緊急措置として決定、公表された。

 ――地方創生に向けて、各地の観光従事者、旅館・ホテル、観光施設などの経営者、従業員に何を期待しているか。

 観光は、地方の社会課題を成長の原動力に転換していくための非常に重要な分野だ。例えば、地方では豊かな自然が残されたままであるとか、過去の豊かな歴史や文化が残っていることが多い。ある意味、都会から離れているという不便さが、地方の社会課題になっている中で、手付かずの自然や文化の継承を観光資源として成長の原動力に転換していくというのが、観光立国ということだと思う。観光は、これからの時代の成長や地域活性化の切り札なので、観光産業の皆さんは、自分たちが持っている社会的な意義に誇りを持ち、観光産業に従事してほしい。

 一方で、観光産業自体は、収益性や生産性が低い、あるいは、近年は人手不足と構造的な課題を抱えている。さらに、新型コロナウイルス禍によって、一時的に大幅に旅行需要が減少し、経営という意味で非常に大きな影響を受けた。債務が増大し、これから返済していかなければいけない。この産業の皆さんに、構造的な課題を解決し、「稼げる産業」に変革してもらいたい。例えば、日本の宿泊は、国際的に比較すると極めて単価が安いと言われている。私が去年の秋、岸田総理の随行で米国ニューヨークの国連総会に行ったとき、マンハッタンのシティホテルに2泊し、40万円払った。決して超豪華なホテルではない。同行者たちと夕食に行き、簡単なスパゲッティやピザを食べたら、1人1万5千円くらい、平気で取られた。通貨の問題もあるが、諸外国の物価水準は高くなっているので、特にインバウンド客との関係では、付加価値を付け、しっかりと単価を設定し、稼げる産業に変革していくのは非常に大事なのだろう。

 国としても、観光地や観光産業の再生、高付加価値化や観光のDX化などについて、さまざまな支援メニューを用意している。採用活動や省力化に資する設備投資など、総合的な人手不足対策の支援を進めていく。収益性と生産性を高め、省力化を図り、職場環境の改善、賃金など待遇改善につながるようにして、観光産業の発展を支える従業員の皆さんを支えていきたい。

国土交通審議官 水嶋 智氏

 

 
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