脱炭素で拙速な議論危惧
日本温泉協会(笹本森雄会長)は3月26日、温泉資源の保護の観点から、地熱開発に関して地元との合意や環境モニタリングの徹底などを求め、無秩序な開発に反対する要望書を環境相、経済産業相、行政改革担当相に提出した。政府が2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする目標を掲げ、再生可能エネルギーの活用を打ち出す中、自然公園法や温泉法の規制緩和について拙速な議論が進むことを危惧し、慎重な対応を求めた。
協会は、地熱開発に伴う源泉枯渇、泉質の変化、湯温の低下など温泉資源への影響を危惧。地熱対策特別委員会を設置し、情報収集や対策の検討、関係機関への要望などを行ってきた。「無秩序な地熱開発に反対」の立場で、「大規模かつ大深度掘削による地熱開発が温泉源に影響を与えることは間違いない」と指摘している。
地域活性化を目的とした小規模発電への期待もあり、全ての開発に反対ではないとしているが、バイナリー発電については、「規制基準が緩く、さらに浅い層の熱源を使うことが多いため、温泉事業者とトラブルが発生し始めている現状が散見され、各県による地熱開発基準案の策定が急がれる」と現状を懸念する。
要望書では、地熱開発を行う場合の条件として、(1)行政や温泉事業者など地元の合意(2)客観性が担保された情報公開と第三者機関の創設(3)過剰採取防止の規制(4)継続的で広範囲にわたる環境モニタリングの徹底(5)被害を受けた温泉と温泉地の回復作業の明文化―の5項目を提示。地熱開発事業者、温泉事業者、地域住民、行政、環境保護団体などで慎重に協議を進めるよう要望している。
協会は、無秩序な地熱開発に反対する要望書を12年、15年にも関係省庁に提出している。18年には資源エネルギー庁などとの意見交換会を再開し、20年からは環境省もオブザーバーとして参加するなど、温泉の保護と利用の在り方を協議しているが、今回改めて要望書を提出した背景には、再生可能エネルギー導入への機運がある。気候変動問題への対応として、国、地方が脱炭素社会への移行を進める中、再生可能エネルギーの活用に向けて地熱開発の規制緩和が拙速に進んでしまうのではないかと懸念している。
協会が不安視するのは、地熱開発を推進するための自然公園法や温泉法の規制緩和。地熱開発の潜在的な可能性が高いとみられる地域は、自然公園法に基づく国立・国定公園と重なることが多い。国立・国定公園内の地熱開発について環境省は、12年3月、15年10月の2段階で規制を緩和し、第1種特別地域の地下部への傾斜掘削を認めるなど通知の改正を行っている。
協会は「自然公園法が地熱開発促進の障害になっているのではないかとの声が出てくることを危惧している。温泉地の保護と活用の観点からも、地熱開発のための自然公園法、温泉法の規制緩和に関しては慎重な議論を積み重ねてほしい」と訴えている。
日本温泉協会の笹本森雄会長、岡村興太郎常務副会長、佐藤好億副会長(地熱対策特別委員会顧問)、関豊専務理事が関係省庁を訪問し、要望書を提出した(写真は資源エネルギー庁への訪問)