ガイド付き体験に草原保全料 温泉熱でCO2削減
観光庁と国連世界観光機関(UNWTO)駐日事務所が主催する「グリーンな観光・国際観光シンポジウム」が10日、東京都内のホールで開かれ、講演や事例発表、パネルディスカッションが行われた。気候変動などの環境問題を受けて、世界で人々の意識、生活が変化する中、観光関係者が地球環境に配慮した観光の在り方について意見交換。グリーンな観光の推進を経済の好循環にもつなげ、持続可能な観光地域づくりを推進する重要性が指摘された。
地球環境配慮型の観光について観光・地域関係者が意見交換したパネルディスカッション
観光は自然資本に依存 環境問題は重大リスク
UNWTO本部持続可能な観光部部長のダーク・グラッサー氏が、動画を通じて基調講演を行った。地球環境問題と観光分野の関係では、「観光産業は自然資本に大きく依存している。インフラの構築、景色や動植物の生息地を楽しむ観光客の誘致などに自然資本を利用しているが、その価値が低下すれば、観光産業は打撃を受ける」と指摘。気候変動対策、生物多様性の保全、循環型経済の構築に関して、観光産業に取り組みが求められていると説明した。
グラッサー氏は、例えば、生物多様性の保全について、負の影響の抑制という視点から踏み込んで、自然環境、生態系の回復に取り組む「ネイチャー・ポジティブ」の考え方を紹介し、観光分野における取り組みの必要性を強調。「UNWTOは、人と地球にとってより良い世界を築くための手段として観光の力を信じている」と述べた。
東京女子大学現代教養学部国際社会学科の藤稿亜矢子氏も講演した。持続可能な社会を考える上で、気候変動(地球温暖化)と生物多様性の損失は、深刻な二大地球環境問題と解説。世界経済フォーラムの報告書を基に、総GDPの半分以上が自然資本に依存しているとして、地球環境問題は今後の社会、経済の重大なリスクになっていると指摘した。
観光産業に対しては、地球環境配慮型の観光を期待した。具体的には、観光を通じた自然保護資金の提供、地産地消の推進、自然と共生した景観や生活文化の維持、環境教育や自然体験の場の提供などを挙げた。藤稿氏は「観光においても脱炭素、自然共生、循環型経済は必須。日本の地域にはこれらを同時に実現するポテンシャルがある」としながらも、「観光が環境に悪影響を及ぼさないようモニタリングを行うことが重要になる。地域に理解できる指標や方法を使い、地域が主体となって継続的に取り組むことが大切だ」と指摘した。
観光活用を通じて持続可能な地域に
シンポジウムでは、事例発表、パネルディスカッションも行われ、国内外の観光関係者が参加した。
山形県米沢市・小野川温泉、登府屋旅館社長の遠藤直人氏は「温泉宿のSDGs」と題して取り組みを紹介した。排湯の温泉熱を使ったヒートポンプを国の補助事業で導入し、給湯やエアコンに使っていた灯油の利用を廃止、年間58トンのCO2を削減してコストの抑制にもつなげた。また、3種のホタルが見られる小野川温泉では、毎年6~7月に「ほたるまつり」を開催し、40年以上の歴史を持つ。単なる集客イベントではなく、地域の自然環境を守る象徴になっていると報告した。
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