ホスピタリティ人材が強み 正社員にエリア職制を新設
――2024年3月27日付で新社長に就任されましたね。抱負を。
「私は藤田観光に入社してから40年間、折に触れて『不易流行』を意識してきた。松尾芭蕉が俳諧論書『去来抄』で記したこの言葉は、本質や伝統を重んじながらも変化を重ねることが大切であるという精神。お客さまに接する際のホスピタリティ・マインドや、歴史ある建物・庭園を生かした婚礼事業・宿泊事業は、時代に左右されない不変の価値として維持すべきものと考えている。同時に、時流に合わせて社内の制度を刷新したり、新しいテクノロジーを採用して新しい誘客の仕掛けを作ったりすることも必要だ。また、現場で働く従業員と話をする際には、具体例を挙げたり、自分の経験を交えたりしながら、シンプルにわかりやすく伝えるようにして心がけている。私自身のモットーである『変えない信念と変える勇気のバランスを保つ』、そして『物事を単純明快に考える』を今後も続けていく。従業員には、常にアンテナを張りめぐらし、『先を見る力』を養い、失敗を恐れずに行動してほしいと伝えている」
――藤田観光の強みは。
「藤田観光グループが提供している価値は、貴重な文化財や歴史的建造物を生かした『環境』と『施設』、そして『料理』『サービス』の4要素。特に料理とサービスのクオリティを高めることには注力しており、日々研さんを重ねている。個々の従業員がお客さまの満足を常に追求。家族のような思いやり、さりげない気配りといったおもてなしの力に長けていると自信を持って言える。つまり、私たちの最大の強みは、ホスピタリティ・マインドを持った人材だ。当社は来年、70周年を迎える。全従業員からアイデアを募り、お客さま向けのアウターキャンペーンと社内向けのインナーキャンペーンの両方を実施する」
――コロナ禍で宿泊業界は大変な苦境を経験されましたが、現在は円安も追い風となり、大変なインバウンド需要に沸いています。ホテルグレイスリー新宿のかいわいに行くと、外国人観光客であふれていて、ニューヨークのタイムズスクエアにいるようです。
「ホテルグレイスリー新宿については、宿泊客の90%以上が外国人だ。新宿歌舞伎町のコマ劇場跡地の東宝ビルの8~30階がホテル。8階のテラスには原寸大のゴジラの頭部が設置してあり、海外でのゴジラの知名度の高さも集客に寄与しているようだ」
――欧米人の宿泊客が多いように見えます。
「コロナ禍前は中国人宿泊客が圧倒的に多かった。回復しつつあるが、まだ欧米人の方が多い。欧米の方は連泊が多く、SDGs意識が高い方も多いため、部屋掃除が毎日は不要とおっしゃっていただいたり、当然チェックイン・アウトの回数も減るので、現在は非常に効率的な運営ができている」
――宿泊業界では、急激な需要の回復に伴って人材獲得競争が激化、人材不足が深刻です。
「22年に人事制度を刷新し、メリハリの利いた給与体系を整備した。また23年に新たな正社員区分としてエリア職コースを新設したところ、反響は大きく、採用競争力の強化につながった。24年から28年までの5カ年で推進する『中期経営計画2028』には、業界上位の賃金水準や雇用条件のさらなる向上を明記した」
――グローバルブランドのホテルチェーンが、ロイヤリティプログラムの集客力を武器に日本国内でFC・MCによる出店を加速しています。純日本系のホテル・ブライダルグループとしてどのように対抗していきますか。
「会員プログラムについては、ワシントンホテル、ホテル椿山荘東京などが別々に運用していたものを22年に統合し、『ザ・フジタ・メンバーズ』として新たに発足させた。富裕層インバウンド誘客という観点では、ホテル椿山荘東京として、グローバルなホテルアライアンスプログラムである『プリファード・ホテルズ&リゾーツ』に加盟している。世界80カ国の600以上のホテルが加盟している組織で、日本では、ザ・キャピトルホテル東急、ザ・プリンスパークタワー東京、ホテルニューグランドなどもメンバーとなっている」
【聞き手・江口英一】
藤田観光 代表取締役社長 山下信典氏
やました・しんすけ 国際観光専門学校名古屋校国際ホテル学部卒業後、1984年に藤田観光入社。箱根小涌園総支配人、太閤園社長兼総支配人などを歴任し、2020年に執行役員ホテル椿山荘東京統括総支配人に就任。24年1月常務執行役員ラグジュアリー&バンケット事業部長を経て、24年3月に代表取締役兼社長執行役員に就任。三重県出身 61歳。