奈良県観光の現状と展望 山下真知事に聞く 日帰り型から滞在型へ転換


山下真 奈良県知事

30年までに宿泊者数500万人目指す

 奈良県生駒市の市長を3期9年務めた後、23年5月に奈良県知事に当選、就任した山下真氏。知事公約の経済・観光振興では「2025年大阪・関西万博を絶好の好機と捉え、大阪・京都など近隣府県と連携し、体験型観光の強化などでインバウンドの取り込みを図る」「民間のアイデアで観光にイノベーションを起こすための戦略本部(仮)の設置」などを掲げていた。山下知事に奈良県の観光の現状と展望を伺った。【聞き手:kankokeizai.com編集長 江口英一】

 ――公約通り、今年5月に奈良県観光戦略本部を立ち上げられました。奈良県の観光における課題と目指すべき姿について教えてください。

 本県の観光における課題は「観光消費額が非常に少ない」「宿泊客数が非常に少ない」「観光客が奈良公園周辺に集中している」ことだ。目指すべき姿は「奈良県の観光GDPの飛躍的かつ持続的拡大」だと考えている。

 ――5月15日に行われた観光戦略本部の第1回本部会議等でも宿泊者比率の低さや奈良公園エリアへの観光客集中が指摘されていました。

 コロナ禍前のデータだが、2019年は奈良県に約4500万人の来訪があったにも関わらず、宿泊者の割合は6%程度だった。国内外からの観光客の訪問目的地は年間を通じて奈良公園エリアに集中している。奈良公園は特にインバウンド客が目立つが。世界遺産が集中し、鹿と接することができる奈良公園の特定の狭いエリアに、しかも10時から17時の間に国内外からの観光客が集中して混雑している。

 ――宿泊施設の充実、拡大は県が目指す「日帰り観光から滞在型観光への転換」にとって最重要課題の一つですね。

 奈良県は、宿泊客室数が全国44位(22年度・1万209室)、延べ宿泊者数も全国46位(23年度・260万人)と低迷している。一方、観光入込客数は全国19位(19年度・4502万人)であり、宿泊者数と訪問者数にかい離がある。直面している課題は、ハイエンド観光客に対応した奈良のブランド力向上に寄与する上質なホテルが少ないこと、客室数の約50%が奈良市に集中し、県内を周遊したい観光客層に対応しきれていないこと、既存宿泊施設の老朽化などだ。県内事業者(既存宿泊施設)の皆さまからは高齢化に伴う後継者不足も深刻であるというお声も伺っている。

 ――県は「奈良県宿泊施立地支援ガイド」というA4版・全25頁の冊子を今年4月に発行されました。新規だけでなく既存の宿泊施設に対してもさまざまな支援制度を提供されていますね。

 県の支援制度として「奈良県宿泊施設立地促進事業補助金」「県税の不均一課税」「制度融資」「宿泊施設整備資金(総合特区支援)利子補給金」などを用意している。中でも目玉は、最大補助額が2億円の「奈良県宿泊施設立地促進事業補助金」だ。「新築・新規開業」に限定していた補助対象を24年度から「古民家など既存建物のリノベーションによる開業」や「すでに営業中の既存宿泊施設の改修等」にも拡大し、補助率も投資額の5%から10%へと引き上げた。本制度が、大規模施設立地が困難な県中南部における宿泊施設の立地・投資の後押しになることで、同地域にゆっくりと滞在し、奥深い歴史文化資源や雄大な自然に触れていただける環境整備が進むことを期待している。また、既存宿泊施設の魅力向上への投資にもぜひご活用いただきたいと考えている。

 ――宿泊施設、宿泊客の誘致目標は。

 21年7月に策定した「奈良県観光総合戦略」では、25年に宿泊客室数1万2千室を目標に掲げた。また今年(24年)5月に設置した観光戦略本部会議で、30年までに延べ宿泊者数500万人を目指すことを決めた。日帰り型観光から宿泊型観光への転換に資するような魅力的な宿泊施設を増やし、宿泊者数の増加を図っていきたい。

 ――新規の宿泊施設誘致も大切ですが、既存宿泊施設にはどのようなご配慮をされていますか。イコールフッティングが前提であり、公正な競争環境が損なわれるような事態は避けなければなりません。

 先述の通り、24年度に「奈良県宿泊施設立地促進補助金」を改正し、新たに県内既存宿泊施設の続改築についても補助対象とした。「制度融資」「宿泊施設整備資金(総合特区支援)利子補給金」も同様に、既存宿泊施設の増改築等にご活用いただける。これらの制度は、一定の基準を満たせば、県外・県内の事業者、また、新規・既存宿泊事業者を問わずに活用が可能だ。新規宿泊施設の誘致も大切だが、既存宿泊施設の高付加価値化・魅力向上も宿泊者数を増加させる需要な要素であるため、それに係る投資を後押しするような支援を行っていく。

 ――来年開催される大阪・関西万博を契機とした県への誘客促進策は。

 現在、国内旅行客や訪日旅行客の多くは、宿泊予約サイト(=OTA・オンライン・トラベル・エージェント)を通じた個人予約が一般的となっていることから、OTAでのプロモーションが有効と考えている。インバウンド誘客については11月27日にエクスペディアと連携協定を結んだ。同サイト内に本県の魅力を紹介する特集コーナーを設置。トップページージ等に奈良県専用特別バナーも掲載する。国内向け誘客促進策としては、本県ならではの食の魅力向上と発信の強化を図り、食を目的とした宿泊誘客を促進するため、県内の宿泊施設と連携・協力。食にまつわる体験コンテンツや、食文化や食材を楽しめる宿泊プランの造成を行い、じゃらんnetでプロモーションを展開している。

山下 真氏(やました・まこと)1968年6月30日、山梨県山梨市生まれ。東京大学文学部卒業後、京都大学法学部に編入、卒業。2000年弁護士登録。06年奈良県生駒市長(3期9年)。23年5月から現職。現在1期目。

 
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