「ハラスメント」は働く人々の基本的人権を侵害して、心身の健康や安全を害することもあり、社会問題化している。その中でも、「カスタマーハラスメント」については、厚生労働省がその定義を、(1)顧客、取引先、施設利用者その他の利害関係者が行う(2)社会通念上相当な範囲を超えた言動である(3)労働者の就業環境が害される―の三つの要件を満たすものとし、企業に対して「カスハラ対策の義務付け」「対応方針の明確化や相談体制の整備」「事後の適切な対応」を求めるなどの法整備の方針を示している。また、東京都や北海道でカスハラ防止条例を制定する動きがあるが、現状としては法律上の定義や規制はない。
カスハラは、お客さまと接点を持つ幅広い業界で増加しており、主要な企業は「カスハラ」に関する基本方針を策定し、ホームページ等を通じて公開することで、企業としての姿勢に対する理解と共感を得ようと取り組んでいる。一方、宿泊業においては、従前より顧客重視の姿勢から「おもてなし」を重んじるあまり、過度な要求に多少なりとも応じてしまう傾向にあったが、それに付け入って、悪質な言動・要求、さらに迷惑行為がエスカレートするケースが増加している。
2023年12月施行の旅館業法改正で、「特定感染症の患者等であるとき」とともに、宿泊施設の過重な負担となり、ほかの宿泊者に対する宿泊サービスの提供を著しく阻害する恐れのある要求を繰り返す「迷惑客」の利用を拒めることが明記された。ただカスハラは、ハラスメント行為者が利用客や取引先であることから、毅然として発言しにくいといった理由で、対応に苦慮されているケースも少なくないようだ。
カスハラの被害が放置され、職場で繰り返し起これば、職場環境が悪化し、従業員の士気を下げ、仕事の質や効率が低下し、他の顧客への対応にも支障が出る。また、標的となった従業員のメンタルに支障をきたし、貴重な人材の離職による流出を招きかねない。さらには採用を含めた人材確保にも影響しかねない。宿泊施設として、宿泊約款の改正、基本方針の策定や、従業員への啓発、教育を主体的に取り組んでいくことが求められる。
JTB協定旅館ホテル連盟(旅ホ連)では、会員施設、旅ホ連本部、JTB旅連事業株式会社が三位一体で、カスハラ対策に取り組んでいる。宿泊施設が主体的に取り組む対策や、旅ホ連本部による教育・研修プログラムなどの具体的内容は、次のホームページに記載されている。
①https://www.ryoren.ne.jp/SPage/jigyou/annai/file/solution/customer-1_2.pdf
*カスハラ対応マニュアルのモデルは次を参照
②https://www.ryoren.ne.jp/SPage/jigyou/annai/file/solution/customer-2_2.pdf
また、カスハラ被害による損失リスクを保険に移転する手法として、JTB旅連事業の「JTB旅ホ連保険」では、次の保険・特約の加入を勧めている。(1)旅館賠償責任保険「迷惑行為被害弁護士費用等補償特約」(2)超Tプロテクション保険「使用者賠償責任補償特約」(3)「レピュテーション費用保険」(準備中)。
今後、JTB旅連事業では、保険会社と連携して、カスハラ対策をテーマとしたオンラインセミナーの開催を計画している。これらの保険の詳しい補償内容や加入相談、オンラインセミナーなどの問い合わせは、JTB旅連事業株式会社 保険相談室TEL(0120)371177。メールhoken@jtb.gr.jpまで。