宿泊税で地方の観光財源を 森トラスト 代表取締役社長 伊達美和子氏に聞く


森トラスト 代表取締役社長 伊達美和子氏

国際水準は定率制10% 法定目的税化で基盤整備

 森トラストの伊達美和子社長(経済同友会副代表幹事・観光戦略委員会委員長、日本ホテル協会理事・観光推進委員会委員長)に、訪日外国人の動向と予測、宿泊税導入に向けての見解を伺った。

 ――訪日外国人客数についてどのように予測しているか。

 「19年は約3188万人、23年は19年比で約79%の約2507万人だった。森トラストとしては、24年は23年比38%増の約3450万人と予測している」

 ――訪日外国人旅行消費額についてはどうか。

 「19年1~12月推計は4兆8135億円で、23年1~12月累計は5兆3065億円だった。24年1~12月については、(下半期の消費単価が上半期と同様だったという前提で)独自推計で23年比30.4%増の6兆9200億円と予測している。つまり24年のインバウンド消費額は7兆円が視野に入ってくる」

 「24年5月の日本の貿易収支は、外国人旅行者の増加により前年同月比で大幅に増加。旅行収支が黒字幅を拡大したことなどが要因となり、サービス収支は23億円の黒字に転化した。インバウンド観光を中心に競争力をさらに高めていくことで、サービス輸出も増加を続けることができる」

 ――インバウンド客の増加でオーバーツーリズムが社会問題となっている。

 「確かに23年5月のコロナ5類以降、オーバーツーリズム関連の報道が増加している。対策を取るにはその財源の確保が必要だ。観光庁予算はインバウンドに合わせて増加傾向にあるが、必ずしも地域経営の観点で組まれているわけではない。地域経営のためには、地域独自の観光財源が必要なわけだが、地方自治体の観光予算は伸び悩んでいる。そもそも域内人口から算出されており、国内外観光客など関係人口が勘案されていない」

 ――どうすべきか。

 「受益者負担による特定財源の確保が必要だ。宿泊税の導入、公共施設のプライシングの見直しなどが考えられる」

 ――宿泊税の導入を巡る議論が全国各地で活発化している。

 「海外では人気観光地を中心に宿泊税の導入事例が多数ある。年間観光客数約1040万人のハワイでは1987年に導入。税率は10.25%で、約962億円の年間税収を鉄道建設、自然保護などに充てている。また、年間観光客数約5千万人のパリでは2015年に導入。税率は1人1泊あたり1~5ユーロで約237億円の年間税収を公共交通機関の整備などに充てている(ハワイ・パリの税収は2019年時点の情報を元に森トラストが試算)。一方、年間観光客数1931万人の東京は2002年に導入。税率は1人1泊あたり、1万~1.5万未満が100円、1.5万以上が200円で、約27億円の年間税収をデジタルサイネージやWi- Fi整備などに充てている」

 ――東京の宿泊税は海外都市に比べて安すぎるのでは。

 「定額制はカウントがしやすいメリットがあるが、収入総額は低く抑えられてしまう」

 ――定率制とする場合、国際水準からみて何%程度が適切なのか。

 「現在、日本国内では主に定額制が導入されており、定率制に置き換えると、税額水準は1~3%程度だ。海外では主に定率制が採用され、税率水準は10%程度となっている。現在の日本の税額水準は低すぎる。税率3%以上の法定目的税とすべきだ」

 ――法定目的税化の意義は。

 「一番重要なことは、使途の明確化だ。地方税法上の法定目的税として宿泊税を導入し、使途を明確化することで税収を確実に観光振興に役立てることができる。現在、九つの地方自治体(東京都、大阪府、京都市、金沢市、倶知安町、福岡県、北九州市、福岡市、長崎市)で宿泊税を導入、税収は2021年度でコロナ禍であったが51億円程度。インバウンドがこれほど伸びている今であれば、相応の税収が期待できる。報道等によると約50の地方自治体が宿泊税の導入を検討中だが、コロナ禍により一時中断していたり、再検討が進んでいなかったりする地方自治体も多いようだ。法定目的税化によって、全国共通の独自財源の基盤整備を行うことで、宿泊税の導入による安定的な観光財源を各地で確保することが可能となる。経済同友会の観光戦略委員会としては、宿泊税の法定目的税化に向けた制度改正を2026年に行われる『観光立国推進基本計画』の第5次改訂と合わせて実施するように提言している」

【聞き手・kankokeizai.com編集長 江口英一】


だて・みわこ 森トラスト/森トラスト・ホテルズ&リゾーツ 代表取締役社長

 
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