宿泊販売5000億円を目指す JTB代表取締役兼専務執行役員 ツーリズム事業本部長 花坂隆之氏に聞く


JTB代表取締役兼専務執行役員 ツーリズム事業本部長 花坂隆之氏

旅行市場の伸びしろ追求

 ――23年度に取り組んだことと、その成果は。

 「23年度は中期経営計画フェーズ2の2年目で、ツーリズム事業では『足元と未来』をキーワードとして『足元』においては回復する旅行需要にしっかりと正対をする、そして、『未来』に向けコロナ禍後のお客さまの志向性や購買行動、価値観をしっかりと見据えながら、ビジネスモデルの刷新や新しい商品、サービス、ソリューションを提供する、この両立に取り組んできた」

 「足元の販売については、回復してきた国内の市場をしっかり捉えることができた。特にWeb販売は19年度比123%と大きく伸ばした。JTBが比較的得意とする東京ディズニーリゾートやユニバーサル・スタジオ・ジャパンを中心としたテーマパーク型の商品も好調だった。団体旅行は教育マーケットが19年度比124%と堅調で、国内法人需要についても取り組めた。国内の個人領域においては94.7%という数字となった。しかし、単価の上昇が追い風になって販売額は19年水準にだいぶ近づくことができたが、人数ベースではまだ19年の水準までは至っておらず、手放しで喜べる状態ではない」

 ――宿泊販売の状況は。

 「当初目標としていた3700億円はクリアすることができ、最終的には3800億円水準となる見込みだ。目標が達成できたのは、全国旅行支援などの追い風があったこともあるが、旅ホ連会員の皆さまから在庫の提供や宿泊プランの拡大といった、宿泊増売に対するさまざまなご支援の賜物であり、改めて会員の皆さまのご協力に感謝申し上げたい」

 ――24年度について、国内旅行市場はどう動くと捉えているか。

 「24年1~12月の数字となるが、国内旅行の消費額は19年比で106.0%、23年比で97.1%となる11兆7900億円という見通しだ。国内旅行者数で言うと19年比93.6%、23年比97.2%の2億7300万人。国内旅行は比較的堅調に推移する。訪日旅行者については19年比103.8%、23年比131.3%の3310万人ということで、19年を上回ると予測する。24年度は、旅行需要の回復に一定程度の期待感が持てる。一方で宿泊単価の上昇が国内需要に影響するという懸念が拭えず、しっかりマーケットを注視しながら対応していく必要がある」

 ――ツーリズム事業での24年度の取り組みは。

 「今年度のグループ全体のキーワードは『未来から現在(いま)をつくる』。新しい時代の中でどうしていくという単年度型の考え方から、未来にどういう姿になりたいのかを描いて、それを目指してバックキャストで取り組んでいくことを掲げている。それに呼応してツーリズム事業では、未来のJTBに向けてビジネスモデルを変革することを目指し、『ツーリズムネクスト』というテーマを定めた」

 「取り組みの柱は『旅行市場の伸びしろを追求していく』ということと、『次代事業』という言い方をしているが、『次なる柱となる事業の創造』の二つだ。旅行市場の伸びしろ追求では、堅調な国内市場の中で、付加価値の高い、JTBならではの商品、サービスをしっかりと提供する。訪日インバウンドでは、着地ベースでの取り組みを進めて、回復する訪日旅行需要をしっかりと取っていく」

 「1番のポイントは、お客さまとの関係性をもう一度しっかりと見つめ直していくということだ。強化を続けている店舗とWebの融合である『OMO』。これがOTAではできない、お客さまとの関係性強化の取り組みだ。Webもコールセンターも店舗もしっかりとお客さまのニーズに合わせて、お客さまにいろいろなチャネルを使ってもらえる態勢をさらに整える。WebではUI・UXの改善、それからWebで完結しないお客さまに対する店舗、コールセンターへの導線の強化などに取り組む一方で、店舗についてはコンサルティングをしっかり行い、お得意様である『MyJTB会員登録』を増やす。会員数は23年度の1年間で120万人増加し、現在、1570万人のお客さまに登録をいただいている。『JTBアプリ』の登録者も同じ水準で増えている。各会員にカスタマイズしたサービスをしっかりと提供するためにアプリの機能改善を図っている。また今年10月にはお客さま情報を管理するシステムを刷新する予定で、これによってお客さまの旅行履歴や趣味、趣向などに合わせて、おすすめの旅行であるとかいろいろな情報やサービスを提供する。そのことによって24年度はお客さまとの関係性を強化していきたい」

 「個人領域では、店舗における販売スタッフの役割は、来店されたお客さまに受け身で単に予約を代行したり情報を提供したりするのではなく、それぞれのお客さまに『個人エージェント』として正対し、お得意様をどんどん増やしていく。店舗ならではのコンサルティングをしっかりと進めることに注力していきたい。そして、宿泊単品についてはWeb上で完結できる仕組みや環境がかなり整ってきたので、Webシフトを進める一方で、付加価値の高い、コンサルティングが必要な旅行についてはプロである店舗スタッフが個人エージェントとしてしっかりと向き合っていく。そういうことをより鮮明にしていく1年にしたい」

 ――宿泊増売の施策は。

 「新しい宿泊管理ツールを昨年12月に導入した。在庫の出し入れが自由になった話ばかり言われているが、それをフックに、今まで在庫という観点で部屋タイプが限られていたものが、いろいろな部屋タイプが売れるようになった。間際まで販売することが可能になったというメリットもある。宿泊施設の皆さまのそれぞれ異なるニーズや特性に合わせて、しっかりと品ぞろえをし、さまざまなチャネルで販売をする。このことを宿泊施設の皆さまに仕入担当者がしっかりと伴走をしながら一緒に進めていく。これを『仕入営業コンピテンシーモデル』と言っている。どういうお客さま層にどういう価格帯でどの商品を販売していくのかということをしっかりと年間で想定をしながら、るるぶトラベルやJAPANiCAN、提携サイトも含むWebとリアル店舗、あるいは団体商品『Aユニット』など最適なチャネルで、最適な価格で、お客さまニーズに対した取り組みを強化していく」

 「24年度の宿泊販売は4千億円を目標に掲げている。未来から現在をつくるという考え方で言うと、28年度には5千億円を実現したい。24年度は単年度で4千億円を超えると同時に、将来の5千億につながるように仕組みの改革や商品の拡充、チャネルの強化を図っていく。5千億円はチャレンジングな目標ではあるが、もう一段高い目標として近い将来に実現したい」

 ――能登半島地震への被災地をどう支援していく。

 「北陸3県、新潟県に対して北陸応援割に加重して北陸の名産品をプレゼントしたり、キャンセルを余儀なくされたお客さまに秋以降にもう1回、北陸を訪れるための1万円の割引クーポンを配布したりした。現在は社員研修や社内の会議などを4県で開催するということを行っている。多くの社員が今の北陸の現状を実際に知ることにより、お客さまに正確な情報を伝えていく。それが風評被害を防ぐためには非常に重要だ。4月からは北陸を対象地域としてJTBのデスティネーションキャンペーン『日本の旬』を実施している。今後も復興の状況に合わせて積極的に支援施策を展開し、地域の活性化に貢献していきたい」

 ――旅ホ連と連携した取り組みは。

 「われわれが『法個仕(法人、個人、仕入)一体』の体制となり、それが地域においても一定程度、定着してきた。24年度は、本当の意味で法個仕の連携を強化していく1年だ。単に宿泊仕入の営業だけではなく、そのことが法人営業や地域交流に連携していく体制を全国で整える。地域コンテンツ開発や地域交流事業、地域の法人需要や個人需要の掘り起こしに旅ホ連の皆さまにもいろいろな形でご支援をいただいて、結果として地域を訪れる人を増やしていく。そのことが地域全体の宿泊増売につながる。この取り組みを加速していきたいため、旅ホ連会員の皆さまには地域への誘客、地域の魅力の発信、魅力的なプランの造成といったご支援、ご協力を引き続き24年度もぜひお願いしたい」

 

JTB代表取締役兼専務執行役員 ツーリズム事業本部長 花坂隆之氏

 
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