
山梨県は2024年度から、「やまなしフードダイバーシティ認証(以下、YFDC)」に取り組んでいる。ムスリムやヴィーガン、ベジタリアンの旅行者が安心して食事や買い物を楽しめるお店を増加させることを目的に、県独自の認証基準を策定し、基準を満たした商品に認証マークを付与するという全国でも例のない取り組みだ。
2024年の訪日インバウンドは過去最多の3687万人超となり、山梨県も富士北麓地域を中心に、連日多くのインバウンドでにぎわっている。その内訳をみると、ムスリムが人口の大半を占めるインドネシアやマレーシア、ベジタリアンが多いと言われる台湾やシンガポールなどの国が上位にあり、多様な食文化を持つ旅行者が山梨県を訪れている。
一方で、山梨県にはムスリムなどが安心して食事や買い物ができる場所はまだまだ少なく、自国から食品を持参したり、コンビニエンスストアやスーパーなどで翻訳アプリを使って一生懸命食べられるものを探しているといった状況があった。
また、飲食店やお土産販売店では、使われている食材や成分への問い合わせに対する説明に時間や人員を割かれるなど、対応に苦慮していることも関係者への聞き取りにより分かった。
山梨県は、このような旅行者と観光事業者がそれぞれ抱える課題の解決策として、YFDCを創設した。
基準の策定にあたっては、観光庁が作成しているマニュアルをもとに専門家の意見も踏まえ、旅行者の判断材料となり得るレベルを守りつつ、事業者が取り組みやすいよう工夫した。
YFDCの認証基準は2段階。第1段階は国際認証機関による認証を取得している事業者に付与される「スター認証」。第2段階は(1)豚および豚由来成分、アルコール成分が一切含まれていないこと(ムスリムの場合)(2)厨房・製造におけるコンタミネーションの明記(3)英語での情報開示―の三つを満たすことで付与される「ノーマル認証」となっている(基準一覧はポスター画像を参照)。
さらに、食物アレルギー対策も重要と考え、ピクトグラムを使った表示にも取り組んでいる。
県が実際に募集をはじめてみると、目標を大きく超える申し込みがあった。「当初、インバウンドが多く訪れている富士北麓地域からが大半だろうと思っていましたが、県内各地からの幅広い申し込み状況に驚くとともに、インバウンド需要獲得への期待の高さを感じました」(山梨県の担当者)。認証の取得にあたっては、専門家による伴走支援が複数回受けられるという安心感も多くの申し込みにつながったと感じているという。
25年度は、認証事業者の増加だけではなく、SNSや海外メディアといった各種媒体やファムトリップなどを通じた情報発信によりYFDCの認知向上を図っていく。
県の担当者は、「多くの事業者から『認証を取った者同士の交流の場がほしい』といった要望があがるなど、事業者が主体となった新たな取り組みへの発展につながることにも期待をしています」と話している。
山梨県は、YFDCが県内に浸透することでインバウンドの満足度の向上、観光消費額の増加といった県内経済への好循環が生まれることをめざし、さらなる取り組みを進めていく。
YFDCのポスター